第84話【梅雨編】鼻高おじさん


あれから梅雨の時期に入り、雨でぬかるんでしまった土の道では王都の石畳でできた道とは違い馬車を動かせない為俺たちは足止めを喰らっていた。


しかしながらこれも想定内、というかむしろ想定して王国一周プランは作っているので計画通りであるのだが。


唯一大変だったのは一か月近く過ごした最初の観光地をいたく気に入ってしまったリーシャがもう少し滞在したいと言ったため出発を一週間先伸ばした事くらいであろうか?


むしろあの、普段自分の気持ちを表現しないリーシャが慣れていない行動に顔を真っ赤にしながら自分の気持ちを言うその姿を見てしまっては滞在の延期をしない理由などないというものである。


時期的には梅雨に差し掛かるかどうかという時期であったので梅雨入り前に次の観光地に何とか着けた事は僥倖であった。


そして今我々が来ているここ、ドートルノーム領であるのだが王国でも珍しい【梅雨の時期が一番の観光シーズン】として知られている場所でもある。


理由として、花の次が花と立て続けてはいるのだがここドートルノーム領には梅雨にさくアーサイという花が王国一の株が育てられている場所でもある為である。


前世でいうところの紫陽花に力を入れている観光地と言えば分かりやすいだろう。


そして赤沼と違うのが、このアーサイは『育てられている』と表現した通り人の手で手入れをされており、アーサイ道りと呼ばれる自然と織りなす細道やアーサイ街道と呼ばれる街中にある人工物と織りなす道、当たり一面色とりどりのアーサイで埋め尽くされているアーサイ公園など様々な観光地が存在する。


赤沼の様な自然が織り成す美しさも良いのだが人の手が加わった美しさというのもそれはそれで良いものであるといえよう。


そして当然リーシャはと言うと赤沼と同じくらい行く観光地、行く観光地目を輝かせては俺に質問攻め攻撃をしてくる(当然めっちゃくちゃ可愛い。なんなら観光地よりもリーシャの方を見ているしずっと眺めていたいと思っている。当たり前だ)。


あぁ、旅の記録が物凄い勢いで増えていくのが分かる。


王都に戻ってからの整理が大変そうだと思うもののそれはそれで幸せな時間なのであろう。


「へー、種類が違うのではなくて土の酸性度によってお花の色が変わるのですね。なんだか不思議ですわ」


そして俺はまるで自分が研究したかの様に能書きを垂れては新鮮な表情をするリーシャを見てご満悦である。


まさにピノキオも驚くほどの鼻高おじさんである。


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