第78話何を言っても無意味

「少しは頭は冷えたか?アルキネス」


そして私の前にやって来た人物は牢屋番などではなくクロード第一王子であった。


クロード殿下は部屋の隅に置いてある椅子を手にすると俺の前まで来てその椅子に腰を下ろす。


「何しに来たのですか?この俺に謝罪をしに来たというのでもなさそうですが?婚約者を奪われた男の顔を拝みにでも来たんじゃねぇのかっ!?」


今更どの面下げて来たというのか。


その面の皮の厚さには驚かされる。


「俺から婚約者を、アイリーンを奪って何がしたいんだよっ!?わざわざ俺の婚約者を奪わなくてもいいだろうがっ!!リーシャという婚約者がいて、周りの女性達からもひっきりなしにアプローチされているクロード殿下がっ!何でわざわざ俺の婚約者を選んだんだよっ!!」


そして俺は怒りのあまり思わずクロード殿下へ怒鳴ってしまう。


しかしかまうものか。


ここまでの事をされても怒らないなどあり得ない。


「少し、言っている意味が分からんな。何故俺がお前からアイリーンを奪った事になっているんだっ?」


あぁ、そういう事か。揉み消せという事か。ここまでクロード殿下がクズだったとは今まで側つきの護衛をやらせて頂いて来て気付きもしなかった。


「まぁそんな事はどうでも良いだろう。今話に来たのはその事ではない。我はな、一人だけに聞くのは不公平だと思ってな。一応アルキネス、お主にも聞こう。名前を捨てる覚悟はあるか?」


そしてクロード殿下はそんな俺の心情をバカにするかの様な事を聞いてくる。


言うに事欠いてクロード殿下の草になれと言うなどふざけているにも程がある。


「クロード殿下、人をバカにするのも良い加減にしろ」

「…………………………良かろう。アルキネス、其方の答えしかと聴き受けた。一応コレでも我は感謝しておったのだがな。其方が名を捨てる事を拒むのであれば無理強いはせぬ。今までご苦労であった」


そこまで言うとクロード殿下は一瞬だけ悲しげな表情をして椅子から立ち、この場から去っていく。


しかし、クロード殿下が去る瞬間、クロード殿下の影から恐らく暗殺部隊の一人であろう人物が出て来る。



「愚かな、実に愚かな、アルキネスよ」

「そ、その声はオルガンかっ!?」

「既にその名前は捨てている」

「成る程、オルガンはクロード殿下に寝返ったのか?名前まで捨てて。オルガン、お前の方が圧倒的に愚かな選択だろう。気でも狂ったか?」

「そうですね、今の君には何を言っても無意味でしょうね」


オルガンはそう言うと五つの映像保存球を牢の中へ置いていくと闇の中へと消えて行く。


何を言っても無意味なのはお前の方だろう。

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