第75話耳元で労ってやる


 ◆



「終わりましたの?」


そして父上との話も終わり部屋から退室して自室へと向かうと、部屋の中でリーシャが待っていてくれていた。


ただそれだけの事であるのにたまらなく嬉しく感じてしまうのは致し方ないであろう。


「あぁ、やっと終わった。やっとだ」


そして俺はリーシャへと言葉を返す。


思えば長かったものだ。


リーシャとの約束の為とは言え死線という程のものではないが危ない橋も幾度となく渡って来たと思う。


「しかし、さすがクロード殿下ですわね。アイリーンさんを使って様々な方に楔を打ち込むだなんてわたくし想像もできませんでしたもの。それこそアイリーンさんはクロード殿下の愛妾になるものと思って疑わなかったですし。クロード殿下と比べればわたくしも………きゃっ!?」


そして俺はまだリーシャが喋っている途中にも関わらず、そんな事など関係ないとばかりに抱きしめる。


初めて抱きしめるリーシャの身体は細く、しかしながら出るところはでており、そして柔らかかく、何より息をするだけでリーシャの匂いが肺に満たされていく。


父上、天竺はありました。ここが天竺でございます。


「で、殿下?クロード殿下?は、離してくださいましっ!婚姻を発表したとはいえ正式に婚姻した訳ではございませんっっ」


抱きしめられているリーシャは『離してくださいまし』と言う割にはその腕には全く力など入っておらず、むしろ自ら俺の身体へ寄せていっている様にも感じる。


そしてシャルル等の側仕えが動かない所をみるとこの行為に問題など無く、そしてこの『離してくださいまし』という言葉はそれらを鑑みるにリーシャの単なる照れ隠しである事が伺えて来る。


「今までよく頑張って来たな、リーシャ。偉い偉い」


そんな可愛いリーシャを俺は当然離す事などするはずも無く、頭を軽く撫でてやりながら今までアイリーンの事等で頑張って来たであろうリーシャを耳元で労ってやる。


そして俺は、抱きしめられ、頭を撫でられ、労って貰ったリーシャが今どのような表情をしているのか気になり、少しだけだけ抱きしめている力を緩めてその表情を覗いてみる。


するとそこには顔を真っ赤にするでもなく、怒っている様でも嬉しそうでも無く、ただ惚け涙を流しているリーシャが目に入ってくる。


「リーシャ?」

「え?あ……、あれ?あれ?なんでわたくし泣いて………あれ?あれれ?涙が止まりませんわ」


リーシャは俺と同様に労いや褒められるという事をされずに育って来たのだろう。


前世で労って貰った記憶や褒められた記憶がある俺とは違い、それを知らずに育って来たリーシャは恐らく今自分の感情を上手くコントロールできなくなっている状態ではなかろうか?


そして、こんな姿のリーシャを見て今俺ができる事はただ一つである。


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