第62話乙女の仮面

しかしそんなわたくしの決意に水を差すかの様な目線を側仕えのメイドとシャルロットが向けて来る。


目は口程に物を言うとはよく聞くのだが、彼女たちのその目には『手紙すら渡せなかった、そしてクロード殿下の前では極度の天邪鬼となるリーシャ様がクロード殿下を前にして愛の告白をする等、私、想像もできません』と、しっかりと語っているのが分かる。


先程までの、わたくしにたいする申し訳ないと思っているという二人の気持ちは、どこかに吹き飛んでしまったのかな?と思わずにはいられない。


「ふん、良いでしょう。元々わたくしの口でクロード殿下へ直接このお慕いしているというお気持ちをお伝えするつもりではございましたし?「お慕いしている」という一言くらい公爵令嬢宜しく優雅に、そしてスマートに言って差し上げますわっ!!オーホホホホホホホホっ!!」


そして高笑いをするリーシャ様の姿を眺めて、鞄の件は後で反省するとしてリーシャ様がそれにより傷ついていないのならば問題ないか、と思うと共にリーシャ様が直接クロード殿下へ自分の気持ちをお伝えするのに何年かかるか分かったものではない。最悪墓場まで持って行くのでは?という事も大いにあり得ると今までのリーシャ様を側で見守って来た二人は判断し、どんな卑怯な手を使ってでもリーシャ様の愛の告白大作戦を成功させましょうと目と目で通じ合うのであった。





「殿下ぁっ!私、殿下の事を想ってお手紙を書いて来たのっ!!ぜひ読んで欲しいなっ!」


そう甘ったるい声で言いながらあざとくも顔を赤面させつつ上目遣いでクロード殿下へ手紙を渡す。


するとクロード殿下は「おお、そうであるか。いつもすまないな。あとでじっくりと読ませてもらおう」と言いながら私に微笑んでくれる。


クロード殿下が私に微笑んでくれるなど、今まで無かったことであり、この分かりやすいクロード殿下の変化に私は一気にクロード殿下のハートを射止める為に早く夜をご一緒したいという気持ちを必死に抑える。


やっとここまで来たのである先走って軽率な行動をとり今までの苦労が水の泡になる事だけは避けなければならない。


そう強く言い聞かせながら私はそんな思いなど表情に出すことなく恋に初心な女性を演じ切る。


「ぜっ、絶対読んでねっ!!」


そう言うと私は『恥ずかしくてもうここにはいられない』という初心な乙女を演出してこの場を去る。


そして私は角を曲がった所で初心な乙女の仮面を剥ぐと獲物が罠にかかった猟師の様な笑顔を見せるのであった。

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