第63話未来の王妃
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そして何ヶ月経ったのだろう。
毎日一通クロード殿下へ渡していた、二百通以上あったリーシャの書いていた手紙ももうこれで最後の一通である。
リーシャの書いた手紙を毎日クロード殿下に渡し始めてから、私に対するクロード殿下の態度やその表情が柔らかくなっていくのが目に見えて分かった。
そして私はこの最後の一通を、いつもの様に乙女の仮面を被りクロード殿下へ渡すと魔術学園の寮、その建物内にある自分の部屋へと帰って来る。
やるべきことは全てやってきた。
自分磨きも欠かす事なく磨いてきたし、クロード殿下が一番関心を持っていた手紙に関しては毎日一通渡した。
結局、この一年近くクロードから返事が帰って来る事はなかったが、それはきっと王族故のルールだったのであろう。
どうせ殿下の言葉は平民相手といえど、どんな理由であろうとも極力文字が残る様な行為は控えろなどという古臭いルールによるものであろう。
そんな古くさいルール等未来の王妃となる私にすら適用するというのであれば廃止にしてしまえば良いのだ。
勿論私が王妃になったらそれら古くさいルール等王妃の権力により全て無くしてしまおう。
そんな、近い未来の事を想像しながら、私はあと二週間後までに迫った魔術学園の全校生徒で行うダンスがメインである大規模なパーティー、その日まで今は我慢の時である、と自分に言い聞かせる。
やっと王妃になれるという長年夢にまで見た正真正銘のお姫様になる事が出来るのである。
そしてそのパーティーは他のパーティーとは違い唯一学生だけではなく数多くの卒業生達、貴族の現当主達も参加しに来るのである。
その貴族達へ私とクロード殿下の仲を知らしめるという事からもやはり、二週間後のパーティーにて作戦を決行するべきなのである。
しかしながらそのあと二週間が、今まで生きてきた中で一番長く感じたのであった。
◆
わたくしが鞄を無くした時期を同じくして、どうやらアイリーンがクロード殿下へ手紙を渡し始めたらしい。
そして噂だけではなくその行為を実際に目撃したわたくしは、アイリーンからの手紙を愛おしそうに受け取るクロード殿下のその表情を見てわたくしの胸が壊れてしまうのではないか?と思ってしまう程軋み、そしてズキリと胸の奥が痛み始める。
その痛みは治るどころか時間が経つにつれ、そしてアイリーンから手紙を受け取るクロード殿下のその表情を思い出すたびに少しずつ、しかし確実に強くなって行くのであった。
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