第61話神のお告げ

そうと決まれば即実行である。


そして私は今まで思い通りに行かない事が多かったストレスなど全てなくなりむしろ上機嫌で足取りも軽やかに、鼻歌も歌いスキップをしながら学園の離れにある池へと向かう。


「ふんふんー♪ふんふんー♪」


池に着くと私はリーシャの鞄からラブレターを全て抜き取った後、鞄に石を詰めて池へと放り投げる。


リーシャの鞄が泡を出しながら沈んでいく光景を見て私は強い快感を覚えるのであった。





「申し訳ございませんリーシャ様」

「私の落ち度でもあります。謝罪させてくださいまし」


魔術実技の授業が終わり、教室へ帰るとわたくしの鞄が消えていた。


鞄が無くなったという事を理解した側仕えのメイドとシャルロットが血相を変えて捜索魔術を駆使して鞄にあらかじめ付与していた魔術を探知する事により回収して来てくれた。


そして今、二人はわたくしの目の前で謝罪をし、下唇を噛みしめ怒りで震えていた。


「いえ、そもそもわたくしが鞄を預けなかったのが一番の原因かと思いますわ。ですからお二人から謝罪されるとわたくしの立場がございません。顔をお上げ下さいな」

「しかし………」

「これに関しては私自身が許せないのですわ」


結局のところ誰が悪いと言われれば二人に甘えてしまっていたわたくしの責任であろう。


その為二人は悪くなどないと言うのだが、わたくしがそう言うと二人はより一層表情に怒りをにじませ、余程強く握っているのか握った拳は白く変色しているのが見えた。


そして二人の目線はわたくしから池の中から発見され泥と水に濡れ池臭さを放っているわたくしの鞄へと移る。


この状態では最早中身の、わたくしが臆病で渡せず終いでいた、わたくしの本心を、思いの丈を、どれ程クロード殿下をお慕いしているかをそのまま綴った手紙も水で滲んで最早読めたものではないだろう。


そもそも池の水に濡れた手紙をクロード殿下へお渡しする事自体が有り得ない。


むしろこれは手紙などという回りくどい事などせずにわたくしの口で、言葉でこの気持ちを伝えろという神のお告げなのかもしれない。


そう考えると何だか言える様な気がしてくるのだから現金だな、と思う。


それにクロード殿下も「百聞は一見にしかず」と言っておられましたし、百の恋文よりも口で紡ぐ愛の言葉の方が、どれ程わたくしがクロード殿下の事をお慕いしているかが伝わってくれるかもしれない。


「…………っ」


先程思った事を振り返り、わたくしながら何と乙女チックな思考なのかと思わず赤面してしまう。

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