第59話苛立ちを隠せない
「全く、側近かつ護衛であるお主とアルキネスがあんな分かりやすい女一人に良いようにされよってからに。もしアイリーンが他国からのスパイやこの我の暗殺者であったのならば貴様の首が今頃飛んでおったぞ。その点に関してはアイリーンに感謝する事だな」
そう言うとクロード殿下は深いため息を吐く。
「返す、言葉も御座いません………っ」
今思い返せばアイリーンは私の事を愛していると言う割には不自然な点が多く、そしてクロード殿下はさりげなく私やアルキネスに夢中になり過ぎるなと、一線を引けと忠告していた事に今更ながらに気付く。
何もかもを無くしてから気付くなど、自分の事ながら本当に気付くのが遅すぎである。
「まぁそう悲観するでない。お主が間違いに気付き、後悔している姿を見るにオルガン、お主はまだ腐り切っていないと我は判断する。人間は誰しも間違う事はあるだろう。むしろ間違いながらも少しずつ成長して行くのが人間であるとも思っておる。取り返しのつかない過ちを犯したのならばいざ知らず、今回お主が行った行為全般は幸か不幸か犯罪には当たらぬ。そして我は優秀な人材がこのまま埋れて行ってしまうのがどうにも我慢出来なくてな………」
クロード殿下は一度深く呼吸をすると私の目を真っ直ぐに見つめ、口を開く。
「オルガン、名前を捨てる覚悟はあるか?」
そして私はクロード殿下のその言葉で全てを理解した。
どうせ家族からは見放された身であり帰る場所も無い身でもある。
今の私には悩む要素などあろうはずもない。
「グラデアス王国、ひいてはクロード殿下に栄光と繁栄を」
そして私は胸に手を当て、片膝をつくとクロード殿下へ首を差し出すのであった。
◆
おかしい。
そう思いながら私は鏡の前で様々な表情を作る。
うん、誰がどう見ても美少女が鏡の前で微笑んでいた。
そう、
で、あるにも関わらずモーデル、そしてロイドと続き私のこの美貌に全く落ちる気配が無いのである。
むしろこの私に向かって汚らわしい様な目線を向けて来るのも一度や二度では無い。
今思い返しただけで怒りでどうにかなってしまいそう。
もし彼らがクロード殿下の側近であり護衛でなければ闇ギルドへ彼らを暗殺するよう問答無用で依頼すると言うのに。
そして、自分の思い通りに行かない事に私は苛立ちを隠せないでいる。
そんな時である。
私は偶然にも見てしまった。
あぁ、やはり私はまだ神に見放されて無かった。
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