第57話彼女の口から出たのは小さな悲鳴であった
一瞬何を言われたのか理解が出来ず、思わず固まってしまった。
目の前の女性は確かにアイリーンで間違いないのだが、まるで別人と会話をしている様な錯覚すら覚えてしまう。
「え………ア、アイリーンっ!私だっ!オルガンだっ!」
忘れているなどあろう筈がない。
何故他人のフリをするのか。
まるで悪い夢でも見ている様である。
「はぁ?オルガンって誰の事ですか?いい加減にして貰えます?さっきからなんなんですか貴方は?衛兵呼びますよ?」
「そ、そんな………っ!?私だよアイリーンっ!!あの夜あんなに愛しあった仲ではないかっ!お互いに愛を囁いたではないかっ!!」
「やめてっ!私に触らないでよっ!!私の身体は貴方如きが触っていいような物じゃないんだからねっ!!」
「そ、そんなっ………っ。何故そんな事を言うんだアイリーンっ!!」
「痛いっ!?」
そして私はアイリーンの肩を掴もうとするとパシリとその手を弾かれ、アイリーンに拒絶された事を受け入れられない私はこの場から立ち去ろうとするアイリーンの手首を掴む。
しかし彼女の口から出たのは小さな悲鳴であった。
「オルガンっ!貴様、俺のアイリーンに何をしているっ!?」
「グエェッ!?」
そして次の瞬間、私の視界は回転し、そのまま胸から床へと叩きつけられ、その勢いのまま顎を床で強打する。
急な出来事であり一瞬の事であった為何事かとパニクっていた私は何一つ抵抗出来ずにそのまま流れるように腕を取られて関節を決められ拘束される。
「信じたくはなかったが、オルガン。貴様は何を今したのか理解は出来ているだろうなっ!?」
「その声はアルキネスか………。何をしていただと?将来を誓い合った仲である私とアイリーンの問題に首を突っ込んで来る貴様こそ何のつもりか?これは私とアイリーンの問題である為部外者は引っ込んで貰いたいのですが」
「貴様………先日の魔術大会で優勝出来なかったストレスで頭がおかしくなったようだな。別段隠すつもりも無かったのだがこの際だ、はっきりと言わせて貰おう。アイリーンと将来を誓い合った仲なのはこの俺であり、決してお前ではないっ!!」
「バ、バカな………っ!?そんな分かりやすい嘘までついて一体何をしたいというのかアルキネスっ!?さぁ、私の愛しきアイリーンよっ、この脳筋に言ってやりなさ………い………っ!?」
この時私はアルキネスが嘘をついていると疑わなかった。
だからこそ、アイリーンへ真実を言うようにと言いながら見たアイリーンの表情、私を見て怯えている表情をしているアイリーンを見て、私はようやっと真実に気付いた。
全てを悟った。
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