第56話埋もれた逸材

一応俺の側近兼護衛となる訳である為身元は事前に調べ上げているのだが今のところは問題がない者の様である。


そもそもアルビンの一件で問題がある家は全て爵位が剥奪されており、その影響によりその家の子供はこの魔術学園を自主退学しているので今現在魔術学園に在籍できている時点で限りなく白に近いのだが念には念をという事である。


そしてこのロイドなのだが宮廷魔術師達による指導によりたった数日でメキメキと腕を上げていっている様である。


元々ロイドの家は貴族と言えど貧乏でまともな指導や教育を受けれない環境でもこの魔術学園へと入学できるだけの知識と技術を独学で学び、入学してからはより一層貪欲に学んで来た苦労人でもある。


それ故に独学時代に覚えてしまった悪い癖を矯正するだけでも一気に成長する事が出来たのだろう。彼にはまだまだ伸び代がございます。というのが宮廷魔術師達の言葉である。


宮廷魔術師達のその説明を聞き、俺は埋もれた逸材を、いい者を拾ったと思う。


そして何よりもの誤算が、彼には既に婚約者がおり、婚約者にゾッコンであった為アイリーンに誑し込まれる前に婚約者がいるにも関わらず関係を持とうとするアイリーンに対して嫌悪感を抱いた事であろう。


人間は二種類に分ける事が出来る。浮気をする者か浮気をしない者かである。


こればかりは当人にしか分からない問題であったのだがどうやら俺は相当な優良物件を手に入れた様である。


正に嬉しい誤算であった。


これならば例えオルガンの方が優秀であったとしても、ロイド君を外してまでオルガンを引き抜くという事は無いだろう。





自信はあった。


例え普段使用している杖ではなく大会用に用意された杖を使用したとしても問題なく私が優勝を手にして再びクロード殿下の元へ戻る事が出来ると思っていた。


しかし私は決勝にてロイドとかいう明らかに私よりも格下に負けてしまった。


負ける要素など無かった筈であった。


一体私はどこで間違えてしまったのか、今となっては何も分からないし、帰る場所さえも無くなってしまった。


親からは罵倒され、いつも私を尊敬の目で見ていた弟達からは怒りの篭った声でこの家の辱だと罵られるあの家にはもはや私の居場所など無かった。


そして私にはアイリーンしか残って無かった。


だから私は縋るようにアイリーンへ会いに行った。


アイリーンさえいれば、私はまだ立ち直れる。


アイリーンの為に立ち直れる。


「あ、アイリーン………っ」

「誰あんた?気安く私に話しかけないでくれるかしら?使えないゴミが」

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