第36話秀外恵中
◆
「クロード殿下は先程の女生徒の事を知っているのですか?」
「そうだな………何と言って良いものか…とにかく今は放っておいて良いだろうが用心する事に越した事はないだろうな」
「っ………さ、さようでございますか」
先程クロード殿下が女生徒とぶつかり、その女生徒が去っていった方角を見ながらクロード殿下が女生徒の名前を呟くのが辛うじて聞こえてくる。
しかしながらただ、たまたま彼女の名前を知っている可能性もある為ここはストレートに聞いてみる。
ここで変に探りを入れて要らぬ警戒をされる必要も無いだろう。
そしてクロード殿下から返ってきた言葉はやはりというか何というか、彼女の事を正しく認知しているようである。
私はその事実にクロード殿下の秀外恵中に今日も今日とて驚かされる。
クロード殿下の側仕えとして十数年働いて来たのだがその頭脳により何度も驚かされ、未だに慣れない。
一体いつクロード殿下は彼女を、アイリーンの事を知ったのか。
いや、クロード殿下の事である。
アイリーンがあのクーデターを企てていたリーダーであるアルビンに目を付けられていた時から恐らくもう知っていたのであろう。
でなければあのクロード殿下がアイリーンの顔を見て『何故ここにいる?』と言う様な表情をする筈ないのである。
私自身アルビンという後ろ盾も無くなった身でどうやってこの魔術学園へ入学出来たのか、その資金は何処から出たのかと様々な事を考えてしまい動く事が出来なかったのである。
そのアイリーンの事を知っていながら良く自然に相手を出来たものだと心の中で称賛する。
「かしこまりました。そのようにいたします」
そして殿下はアイリーンなど障害物でも何でもないと言わんばかりに捨て置けと仰られたのであれば、アイリーンは最早路傍の石の価値も無いと判断したのであろう。
その事からもクロード殿下はアイリーンの後ろにいるパトロン達が誰なのかを既に気付いている可能性が高い。
流石としか言いようが無い。
それと同時に私ももっとしっかりしなければと気を引き締める。
本来であれば私が、今年アイリーンが魔術学園へ入学するという情報を事前に手に入れてその裏にいるであろう黒幕まで調べ上げ、アイリーンが入学する前にクロード殿下へその情報をお伝えしなければならない立場であるというのに。
「申し訳ございませんクロード殿下。本来であれば私が彼女の事について事前に調べ上げてお伝えしなければならない案件でございました」
「あ、ああ。その件については何も思ってはおらぬし、そもそもそれは側仕えであるお主の仕事では無いだろう?気にするな」
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