第16話弊害
◆
目が覚めるとわたくしの枕元にはクマのぬいぐるみが二つ仲良く並んでいるのが見えた。
夢でも幻でも無かったと、このぬいぐるみを見る度に思う。
そして、そのぬいぐるみの横にはウサギのぬいぐるみが二つあった。
あの日の後、正真正銘わたくしの両親から買ってもらったぬいぐるみである。
こんな幸せで良いのだろうか?と朝目覚める度に思う。
昔のわたくしからすれば信じられない程幸せな毎日だ。
それもこれも全てクロード殿下のおかげだ。
そしてわたくしは写真立てに飾ってあるクロード殿下の写真を両の手で取ると、クロード殿下へ目線を向ける。
「く、くくく、クロード殿下っ!わ、わたくしリーシャはクロード殿下の事を………そ、そのっ、おおおおおおお、おしおしおしっ、お慕い申している訳では御座いませんからねっ!そうたやすくわたくしの心を奪えるとは思わない事ですわっ!………………あぅあぅ」
わたくしは頭を抱えて蹲った。
何で『お慕い申しております』の一言が言えないのか、そんなわたくしが嫌になってくる。
そしてわたくしはもう一度クロード殿下の写真へ目線を向ける。
「な、何故こちらの方を見てらっしゃっているのですのっ!?勝手に見ないで頂けますっ!?……………何故ですのっ!?」
「朝からうるさいですわよリーシャさんっ!朝ご飯出来てますから早く降りて来なさいなっ!」
「は、はいっ!お母様っ!」
そしてわたくしがまたもや自分の気持ちを素直に言えずに悶えているとお母様が朝食の準備が出来たと声をかけてくれる。
一昔前ならあり得ない光景ではあるのだが、今ではそれが日常になりつつある。
その事に自然と笑みが溢れる。
そもそもあの貴族貴族と煩かったお母様が声を張り上げる姿など想像すら出来なかった光景である。
それこそ初めは辿々しかったお母様も今では堂に入ったものである。
あの夜、泣きながらお母様に謝られた事を思い出す。
いや、お母様だけでは無い。
家族全員が泣いていた。
「おはよう御座いますお母様」
「はいリーシャ、おはよう御座います。早く顔洗ってらっしゃい。朝ご飯食べますわよ」
「お、おはよう。お姉様」
「おはよう御座いますリリアナ」
こうして家族同士で朝の挨拶をするという当たり前の日常であろう光景を作るきっかけを作って下さったクロード殿下に、毎日過ごす度にわたくしの気持ちが膨れ上がってしまい、今ではクロード殿下を前にしただけでどうにかなってしまいそうである。
その結果が、クロード殿下を前にすると本心が言えないという弊害である。
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