第13話手術

「では、これより手術を始めよう」

「しゅ、しゅじゅつ………とは何ですの?」


俺の言葉にリーシャはコテンと首を傾げ手術が何なのか聞いてくる。


それは魔術があるこの世界では致し方ないのであろう。


わざわざ身体を切り裂いて病いを治すという発想そのものがこの世界には無い。


そもそも身体を切り裂かなくても回復魔術である程度は治せる為、医学そのものが発展していないのだが。


唯一薬学だけは、神官へのお布施が払えない者の多い平民の間である程度は進歩しているみたいであるのだが、それでも信憑性に欠けるものや、オカルト的なものも多い。


そんな世界だからこそ手術と言われてもその意味が分からなくて当たり前である。


「手術とはな、魔術や薬以外で病気や怪我を治す方法である」


そう言いながら俺は切り裂かれ中から白い綿が出ているクマのぬいぐるみを手に取る。


「本来であれば人に施すのだが、怪我を魔術や薬以外で治すのだからコレも歴とした手術であろう」


俺の言葉にリーシャは俺がコレから何をするのか流石に気付いたのかハッとする。


そして俺はニーナに持って来させた道具を手にするとはしたなくも胡座をかきながらぬいぐるみの縫い目を丁寧に解き、生地と綿へと分解して行く。


普段のリーシャであれば胡座をかき座っている事に対して小言の一つや二つ程飛んできそうなのだが、今のリーシャは四つん這いになって食い入るように俺の手元とクマの縫いぐるみを眺めている。


そして俺は分解した生地を新しい生地の上に置き、型を一つ一つ取って行くとそれをハサミで切りとって行く。


今日この日の為に俺は何度もクマのぬいぐるみを作る練習をして来たのである。


俺の手つきは一切の戸惑いを見せる事なく、手術は進んでいく。



「ほら、手術は無事成功である。どうだ?自分で言うのもなんだが見事なものであろう?」

「………っ!………っ!」


俺の問いかけに勢いよく何度も首を縦にふるリーシャへと俺は医療ミスも無く、見事復元されたクマのぬいぐるみを渡す。


「そしてこのぬいぐるみは俺からのプレゼントだ。お友達のクマのぬいぐるみである」


そして俺は更にリーシャへ、俺がこの日の為に作った、何処と無く俺自身に似ている気がするクマのぬいぐるみをリーシャへと渡す。


「あ………っ、ありがとうっご、ごじゃいまずぅぅぅううっ!!」

「どう致しまして。ほら、鼻水出てるよ。ハンカチを貸してあげるから」

「ずびばせんっ、恥ずかしいので見ないでくだざいぃ〜っ!」




そしてこの日、リーシャの宝物が二つになったのであった。

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