第11話亡霊
◆
俺は今はやる気持ちを抑えながらリーシャの部屋へと、クヴィスト家のメイドに案内されながら向かっている。
リーシャが王太子である俺との婚約が決まったその日、妹であるリリアナに唯一の宝物であるクマのぬいぐるみを破損させられた事がトドメとなりリーシャの心が壊れ、以降リーシャは自分の感情を表情で表現する事が殆どできなくなる事を俺は知っている。
例え、上手く表情を作れなくなったとしても俺はリーシャを見捨てる様な事などしないのだが、婚約者が、その心が壊れてしまう程に悲しい思いをしているのならば助けてやりたいと何年も前から計画に計画を練っていたし、今では、初めて会った時に俺の微笑み(さすがはメイン攻略キャラクターと言わざるを得ない破壊力であると自負している)を見て赤く頬を染めるリーシャが見れなくなるのは俺自身なんとか防ぎたいと思う。
そして、メイドに案内されたリーシャの部屋へ入って行くと傷だらけのクマのぬいぐるみを抱きかかえて蹲って涙を流しているリーシャの姿が目に入ってくる。
恐らくショックのあまり周りが見えておらず俺が入って来た事にすら気付いていないようである。
これが、リーシャが表に出せた最後の感情になるなどと例え神が許してもこの俺が許さない。
そんな確固たる決意を、リーシャを見て再度強く認識し、俺はリーシャの前まで来ると蹲っているリーシャに合わせる様にしゃがみ込む。
「助けて………」
その時、確かに俺はリーシャの心の叫びを聞いた。
そして俺は考えるよりも先に身体が動き、リーシャを思わず抱きしめてしまうのだが構うものか。
リーシャは俺の婚約者となったのだ。
誰も文句を言わせない。
「当たり前であろう?俺はお前の婚約者なのだから」
そして俺はリーシャへ優しく語り掛けると、リーシャはゆっくりと顔を上げて俺を見つめてくる。
その眼は何もかもを諦めており、まるで亡霊にでも出会ったかのような目をしていた。
しかし、その目には僅かではあるものの、助けて欲しいというリーシャの叫びが確かに映し出されていた。
「遅くなってすまない。助けにきた。やっと君を助け出す事ができる時が来た」
そして俺はリーシャの顔を手で挟むように固定して俺と視線を合わせると、優しく、しかし強い思いを乗せてリーシャへ語り掛ける。
「ほ………本物なのですか?」
「ああ、本物だ」
ぽろぽろとリーシャは大粒の涙を流しながら恐る恐る聞いてくる。
それはまるでやっと出会った希望が逃げ出さない様に、慎重に、慎重に、逃げないでと聞いてくるかのようである。
「本物のクロード殿下なのですか?」
「そうだ。ほら、手で触ってもすり抜けないし、消えないであろう?幽霊でも幻影でも幻でもない。まぎれもなく本物の、貴女の婚約者であるクロードだ」
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