第4話:学校(リメイク)
さてさて、観測者(どくしゃ)の皆様にアピールしなければならないのにサボり気味だなあ……
俺は世界の生死を握っているというのに呑気にアニメを見ていた。
弁解させてもらうなら『イベント』を起こすためのアイデア出しであり決して世界を投げだそうとしていたわけでは……
俺はとりあえず学校を作り出してそこに登校することにする、何か起きるなら学校が多いと参考資料(アニメとマンガ)に書いてあった。
そうは言ってもそんなに頻繁にアクシデントが起こるわけではないのでただ登校して授業を受けているだけでは飽きられてしまう。
ここは学校にテロリストを呼び出そうか……
すこしだけ浮かんだ中学生でももう卒業していそうな妄想を実現するのはやめにしておいた。
とりあえずヒロインを出しておく参考資料が多かったので俺は隣の席に今日のヒロイン『幸子』を作り出す。
名前は適当だ、どうせ明日で来た学校にはまた新しく生成した生徒が通うのだ、いちいち個性的な名前を付けるとキリがない。
「ねえねえ四郎くん、教科書見せて?」
つかみとしては問題ないだろう、定番の『教科書を忘れたシチュ』だ。
「しょうがないな」
俺は隣の幸子の机と自分の机をくっつける。
ここでラブコメイベントのフラグを立てなければならないのだが……やるのか? 自分でさっき用意した存在相手にラブコメをやるのか……
俺はまったくドキドキしない残念なイベントをこなすことにした。
読者の皆さんは自分の書いたマンガや小説に興奮できるのだろうか?
俺には出来ない。
早速破綻しそうなイベントをこなしていく、こういうのが好きという人もいるだろう。
席がくっついたので距離が近づく、適当に石けんの香りが漂ってくると設定する。
隣にいるのは文句なしの美少女で、いい匂いがするほど近くに寄っているのだが……何の感情もわかない……
い、いや! まだ一限目が終わっただけだ!? イベントを起こしてスチルのCGがつきそうなシーンを演出してやる!
二限目、英語。
幸子の英語力を引き上げてネイティブ並の読み書きが出来るように設定する。
そして英語といえば隣の席と二人組を作っての模擬会話だ。
「H...Hi?」
「Hey Shiro! whatsup?」
やべえ、さっぱりわかんない。
この世界の条理を自由に操れても自分自身については操作が怖い。
自分の脳を改変するのはとても怖いので俺にはバニラの人間スペックしかない。
喧嘩なら相手を改変すればいいので何の問題も無いが自分のスペックを問われることには非常に弱いことが分かった。
諦めで所謂Engrishレベルに会話のレベルを下げてなんとか乗り切った。
やべえ……イベントらしいイベントが起こせない……
三限目は数学だ、今度は俺のほうが詳しいレベルに幸子の数学レベルを下げる。
ちなみに最高まで上げればフェルマーの最終定理の証明をゼロから出来るレベルになる。
「じゃあ幸子! この問題の答えは?」
モブ教師に指名をさせる、彼は今回のみの登場なので男であること以外に属性を設定していない。
「ええと……tan1℃は……」
設問はtan1℃は無理数かという問題だ、一応答えがあったはずだが記憶にさっぱり残っていない、しかし俺は隣の幸子に手元のノートに書いたカンペを見せる。
「あ! 無理数です!」
「よろしい」
「えへへ……ありがとね」
そう小声でささやく幸子は少し可愛かった。
授業が終了し好感度アップしたしなんかイベントを……と、考えていると幸子のほうから話しかけてきた。
「ねえ、なんで無理数って分かったの? 解き方とか教えてくれない?」
俺のカンペには『無理数』としか書いていないので分からなかったようだ。
「いや、アレはシンプルな問題だぞ、『有理数』と『無理数』を比べると無理数のほうが多いんだから無理数って答えた方が正解率高いだろ?」
ものすごく微妙なものを見る目でこちらを三白眼で見てきた。
「そう……ありがとうを返して欲しいわね……」
すごくがっかりされたのだった。
四限目体育、残念だが別に受けるのでイベントは起こせない。
さすがに更衣室を覗きに行くというあまりにも酷いイベントを起こす気にもなれない。
……↓……
……↑女子更衣室の絵……
一応絵がついたときのためにスペースを確保しておく、これでこの世界が有名になっても問題ないな!
五限目科学。
これについては実験をすることになっていたので特殊イベントを起こすのはいくら高校レベルの試薬でも危険と判断して普通に過ごした。
六限目現代社会。
これを六限に持ってきたのは俺の最大のミスだった。
…………
ここにあなたの理想の社会を書いてください
…………
どうやっても荒れそうな話題なので読者諸君の想像通りの授業が展開されたと判断して欲しい、上記のフリースペースに好きな内容を書き込もう!
そうして下校時刻が来てしまった。
やばい、何も起きてないよ……
俺の家は徒歩圏内、面倒だったので近所という設定にしてしまった、これでは下校イベントが起こせない!
幸子の家をどの辺りに設定したか考えてみる、俺に家とは逆方向、徒歩圏内。
ヤケクソになった俺は転校を操作して雨を降らせることにした。
「あちゃー夕立かあ……傘が……」
隣で都合良く困っているのは幸子だ。
俺は幸子にさっき生成した折りたたみ傘を差し出す。
「え?」
「使っていいよ、俺の家近いから」
「え……でも悪いよ……四郎くんが濡れちゃうよ?」
「大丈夫、俺、運がいいから」
そう言うと幸子の手に傘を握らせる、相合い傘イベントはちょっと起こしづらいな。
「ありがとねっ!」
幸子は精一杯の笑顔を俺に向けてくれた、ギャルゲならイベントCGがつきそうな笑顔だった。
そう言って幸子は帰途につく。ある程度距離が取れたところで俺は自宅向けのルートの雨を止める。
「まあ嘘はついてないな、傘なんて必要ないんだ」
そうささやいて俺は帰宅していくのだった。
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