第2話:主人公、盛り上げようと頑張ってみる
俺が外の世界を理解して数日、様々なことを試した。
無駄にハンターギルドなる組織を作ってみた、やはり異世界物とは相性が悪いらしく不興を買うだけのような気がしたのでなかったことにした。
ハーレムを作ってみようとも考えたのだが、ハーレムには俺とそれなりの関係性を持ったヒロインが複数必要になってくる。
複数人のヒロイン――しかも俺と関係の深い――を用意するとどうしても説得力やそれまでの積み重ね、のようなものが必要になってくる。
昨日まで存在していなかったモノを作り出すことが出来るのは確認しているが、自身と深い関わりを持つ存在を複数用意することのリスクは計り知れない、もしかしたら話(せかい)が破綻するかもしれない。
もちろん不要なモノを削除する事も簡単に可能なのだけれど、そんなご都合主義の塊を披露しても関心をひくことは出来ないと思ったのでやめた。
数日間の能力濫用で分かったことは『外世界』は思った以上に万能であり、かつこの話(せかい)に対して極めてデリケートな存在であるようだ。
俺の力が話の存続を決める、それは想像するにも恐ろしい力だ。
『外世界』の力学的にあり得ない存在もここには簡単に作り出せるが消した場合過去との矛盾が話を危険な不整合を起こすことが分かった。
やはり『ハンターギルド』を早々に解体したのは正解だった。
この話(せかい)にバランス崩壊を引き起こす組織を作るのは危険だ。
そうは言っても困ったことにこの力を使って『面白い』世界を作らないと世界の崩壊や衰退をもたらすことも上位存在(さくしゃ)から聞き出すことが出来た。
前置きが長いと訪問者が減り、ついには世界の放棄をもたらすことも聞いたのでここまでの話は以上の最小限にとどめよう。そう、俺は『面白い』事をしなければならないのだ。
上位存在(さくしゃ)から、更に上位の存在(うんえい)のレギュレーションや平行世界の標準(テンプレート)についても聞くことが出来たが、この世界が現代日本ベースに生み出されたためデファクトスタンダードのテンプレートは使用が出来ないとのことだ。
……とりあえずヒロイン出しとこ。
「四郎くんかっこいい!」
「峰山さんすごいです!」
「しろーく……
やめよう……自分に都合のいいヒロインが欲しいと思ったことはあるが自分で作るのがこれほど虚しいとは思わなかった。
三人目でご退場願ったヒロインたちがどこかで幸せになってくれることを願いながら俺は三人を追い出した。
現在世界は俺の住んでいる街までが確定で存在しており、日本は概念として存在しているが俺の埒外はあくまで概念上存在『している』状態であり、必要に応じて実体化されるらしい。
自分の管理外になった存在は自動的に『なかったこと』になるらしい。
謎部活でも作るか……
そう、外世界で一時流行ったという部活モノをやってみることにした。
俺は世界の時刻を平日朝に変えて登校する、よくよく見ると登校している生徒にそれほど存在感が無く、じっと見ないと顔すらも確定していないことに気付いた。
どこまでいい加減なんだ……管理者(さくしゃ)……
部員は適当に作ればいいので部活動の内容を決めよう、軽音部や美術部、果てはネトゲまで部活動にしている世界も存在するらしいので俺はできるだけ奇抜な活動内容を考えなければならない。
俺は頭をフル回転させてまだ存在していない部活動を考える、ゲーム制作……あるのか……ライトノベル部……これもあるのか……
およそ学問にけんかを売っているようなジャンルの部活動もしっかりとカバーされているようで俺は頭を抱える。
よし……『世界運用部』にしておこう……現在――2020/08/06――存在していないようだ。
活動内容は、『この世界を管理運用しできる限り長く存在させる』でいいだろう。
パッ
俺は創部届を手元に出現させ書き込む、フォーマットは数秒で考えた適当なモノだ。
部員も必要だな。
「『世界を動かす』か……すごいじゃないか! 僕も参加させてくれ」
「私もはいるー、なんか面白そう」
「私も……入ろうかな……何かに入れって言われてるし」
手っ取り早く男一人に女二人を創造した、設定はこれから考えよう、そもそも部活動が軌道に乗らなければ退場するメンツの個性にこだわってもしょうがないだろう。
職員室にて――ポン――秒で顧問教師を用意して判子を届けに押してもらう。
実際のところこの手順すら踏まず、『昔からある部活』としてしまうことも可能だが、昔からあると設定してしまうと部活動が上手くいかなかったときに『歴史ごと』消えてもらう必要があり面倒なのでお飾りの顧問を用意して新規の部活と言うことにした。
これなら最小限しか『世界』に影響が無くて済む。
さて皆さん、この部がどんな部か想像がつくだろうか?
つかないはずだ、何せノータイムで出したネタだからだ。
俺が干渉可能なのは『話(せかい)』までであり外世界に対してはまったく影響力を持たないので外世界の時間に合わせて話を回していかなければならない。
つまりはこの部活は実験的にこの物語をどう回していくかを決めるための参考になる。
「よし、なんかゲームでもするか?」
「ゲーム? それが活動なのか?」
部の名前とまったく関係のなさそうな事を始める俺に男子のフーくん(仮)が問いかける。
「以外と緩いのね……」
「私は楽な方がいいけど……」
バーちゃんとバズちゃん(それぞれ仮)の女子二人はそれなりに納得しているようだ。
外世界の法則的にこういったときは女子に合わせた方がいいらしいので男子のフーくんには悪いが話を進めさせてもらおう。
「ババ抜きと大富豪、神経衰弱あたりが今できるゲームだな」
世界管理の都合上電子ゲームは作り出すコストが高いためシンプルなトランプを後ろに手を回して作り出し差し出す。
「あんまり頭使うの難しいし、ババ抜きでいいんじゃない?」
「私も簡単な方がいい……」
バーちゃんはあまり難しいことを考えるのが大変で、バズちゃんはそもそもやる気が無いようだ。
フーくんについては数あわせなので無視する。
そもそも頭脳戦をやるには人間を作るのにかかるコストだけで手一杯なのに複雑な心理を作り出すのが大変なので、二人はそれが影響してシンプルな考えしかできないようだ。
なお面倒なのでかっこ仮は省略します。
二十分後……
「じゃあ……これだ!」
俺が引いたカードはまたしてもジョーカー、これで数戦全敗している。
俺はこのゲームの抱える問題に気付いていなかったのだ。
ババ抜きと言えば相手の顔色をうかがってジョーカー以外をひいていくゲームだ。
そう、『相手の心情』を読む必要のあるゲームだ。
つまり俺が心理面を適当に作ったため……
「みんな強すぎ……」
俺はうんざりしていた、それから一時間、全員が完全なポーカーフェースでランダムにカードを引いていくため俺は運ゲーをプレイするハメになった。
一応数回ビリから二番目になったことがあるがどれも最後の一枚で俺が運良く当たりを引いたときだけだ。
皆さんは『だったらお得意の世界操作でジョーカーを押しつければいいのでは?』と思われたかもしれない。
まったくもってその通りなのだがトランプでチートをやって読者を楽しませることは不可能だろう、ゲームのセーブデータをいじってラスボスを一方的に倒すのは楽しいが、それを見てハラハラドキドキはしないだろう。
そういうことで俺は正々堂々と勝負をしていたが早々に投げ出した。
「もう少し考えれば良かった……」
そういう俺の独り言に反応した人は一人もいなかった。
困った……部活作って駄弁ってれば絵になるだろうという外世界の雑な理解が裏目に出た。
しかも駄弁ろうにもこの三人は適当に作り出したため世間話以上の話題が存在しない。
「お疲れさま、今日はこれで終わりな」
「分かったよ」
「はぁい……いつもこのくらい楽だといいですねぇ……」
「なにもしてないわね」
三人とも帰宅してもらい存在の凍結を行う、部活動については幽霊部員として名義を貸してもらおう。
部活自体は残しておく、思い出を残すとかそんな格好いいものじゃなくただ単にもう一度一から作るのが面倒だったからだ。
帰り道……
部活動路線は失敗だったかなあ……俺は外世界に向けた独り言を言う。
残念だがそれについて色よい回答が来ることはなさそうだった……
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