第四の壁を越えた俺は好き勝手に生きることにしました(カクヨム先行掲載)

スカイレイク

第1話:主人公、第四の壁を越える

 ガシャーーーーン!


 頭の中でそんな音が鳴り響いた。

 俺はあたりで爆発でも起きたのかと周囲を見回す。

 周囲ではいつも通りの日常が繰り広げられている、そう『みんなは』いつも通りに生活している。

 気のせいかとも思ったが突然俺の脳に天啓が降りた。

 その時から俺の価値観はあらぬ方向に変化した。


 俺の紹介が必要だろう、俺は峰山四郎(みねやましろう)という平凡『だった』高校生だ。

 好きな食べ物はカレー、好きな飲み物はルートビア、後は追い々い紹介していこう。


 誰に対して言ってるのかだって? 『あなた』にだよ。


 そう、俺は突然自身が観察され作られている対象であることを理解したんだ。

 所謂『第四の壁』を越えたってやつだ。

 だかれ俺は自信が見られていることを知っているし、何故生み出されたかも知っている。


 普通の人たちは自信が創作物の中の存在であるとまったく気付いていないようで平気な顔で読者諸君のヘイトを買うような行動をしている。


 俺は世界を維持するためにそういった行為を止めることを義務として生きることに決めた。

 なにせ世界の続けるためには胸くそ展開は歓迎されない行動だからな。


 そんなわけで所謂『テンプレ』のごとく、体育館裏でカツアゲをしている不良に対し俺は対峙している。

「誰だよオメーは? 邪魔すると殺すぞ!」


 おっと不良さんは不規則発言をする方のようだ、あまりのさばらせておくと神(運営)の逆鱗に触れそうなのでさっさと片付けよう。


『俺は不良集団を数発殴って追い払った』

俺は外部に干渉して本文にそう付け足した。


 すると不良は殴られたという結果が作られ顔に青あざを作って捨て台詞を吐く。

 

「畜生! 覚えてろよ!」


「まったく……世界の秩序に関心を持って欲しいんだがな……」


「ありがとうございます!」


 ん? ああそうだ、カツアゲということはちゃんとカツアゲされる側もいるんだった。


「気にするな、ところで今何が起きたか分かるか?」


 キョトンとした顔で俺を見るモブ。


「あなたがあいつらをボコボコにしたんですよね?」


 やっぱりそう見えるか……


「いや、そうだな。もう大丈夫だと思うが困ったら俺を呼ぶといい」


「はい!」


 モブは安堵してその場を去って行った。


 俺は別に人に優しいわけではない、ただ世界を長く続けるために治安を維持しているだけだ。

 世界を面白くする、それが俺の使命だと理解して以降もめ事には積極的に介入している、物語を動かすと『視線』が増えるのを感じるのだ。

 ただ、困ったことにこの世界に魔王や勇者はいない。

 いなければ作ればいいのだが今の俺は世界にそこまで介入していいのか悩んでいる。


 俺は当たり前のことをした後に帰途につく、まずいな……トラブルが何も起きない、これでは『読者』が飽きてしまう。


 俺はラブコメ路線も投入することにした。


「あれ? シローちゃん? こんなところで何やってるの?」


 話しかけてきたのはクラスメイト、姉や妹も好みだが安易に出すと後々ずっと出さなければならないので後腐れの無い関係性のクラスメイトを出すことにした。


「ああ、ちょっと買い食いをね」


 俺はてにルートビアを持って言う。


「だめだよー、放課後はまっすぐ帰らないと!」


 説教くさい属性を付けてみたが如何だろうか?

 俺は多少反論をしておく。


「いや、困ってるクラスメイトを助けたんでな、運動したらカロリーが欲しくなったんだ」


 クラスメイトの名前は花子としておこう。


「そういうのホント手を出すの好きだよね、もう少し安全な方法をおすすめするよ?」


 そう言いつつもしょうがないなあという顔をしている。

 俺に対する好意のパラメータを少し上げているのでデレやすい。


 花子は栗色の髪を揺らしながら俺とともに歩く。

 自宅の方向は俺のいえと同じにしておいたので自然に一緒に帰ることができる。


「ホントすごいよねシローちゃん、この前の小テストも完璧だったよね!」


 自作した問題なので満点を取れるのは当然なのだが俺は控えめに答えておく。


「あれくらいならなんとかなるよ、花子だって満点近かったじゃないか」


「そうだね、いっぱい勉強したんだよ!」


 えらいえらいと頭をなでる、ベタだが演出としてアリだろう。

「ねえシローちゃん、私……」


 おっとまずいな、これではシリアスルートに入ってしまう。

 シリアスは受けが悪いのだ。


 風がひゅうと吹き花子のスカートを揺らす。


「きゃ! ……見えた?」


 ラッキースケベは基本である、これを入れておくかどうかで受けが違うという説もある。


「いいや、なんにも」


 読者の諸君には白い布が見えただろうが俺には見えなかったということにしておく。


 しかし困った、幼なじみ程度の関係性ではラブコメ分が足りない。

 よし、こういうときはごろつきを登場させよう。


「おう兄ちゃん、可愛い彼女連れてるじゃねーか」


 絵に描いたような悪人が出てきた。

 ここで異世界なら銃火器を持っていたり魔法を使ったり出来るのだが舞台は現代日本である、そんな物騒なモノをチンピラがホイホイ持っていたりはしない。

 いや、持たせることは出来るのだがでかい話を広げると風呂敷をたたむのに苦労するのでバタフライナイフ程度にしておこう。

「そこの彼女、俺といいことしないか、おぅ!」

 

 カチャカチャとナイフを鳴らしながら近づいてくる男に俺はグーパンを腹に当てる。


 男は気絶した。

 大体バトル描写が細かくてもあんまり評価されないのでワンパンで倒しておこう。


「ありがとう! シローちゃんすごいよ!」


「そうか? 余裕だぞあの程度」


 俺は強くなくてはならない、主人公というのは強いモノだと相場が決まっている、掲載場所がWEBなら尚更だ。


「シローちゃんと一緒で良かった~ 怖かったよう」


 主人公上げは定番ということで褒めてもらう、自分が世界に干渉しているにしてはあまりにもくだらないことをしているが主人公は褒められなければならない、そういうルールだ。


 先ほど俺が倒したチンピラはもう視界にいない、用が済めばさっさと存在を消すに限る。

『必要以上に実体を増やしてはいけない』という有名な格言がある『オッカムの剃刀』と呼ばれている言葉だ。

 出番が済んだモノはさっさと綺麗に消えるようにしている。

 この街も必要最低限の実体しか持たず見えていない範囲は存在するのか曖昧なシュレディンガーの猫状態である。

 確実に存在しているのは俺の目の届く範囲、それ以上は必要に応じて生成する。


「じゃあ帰るか」


 花子はパタパタと駆け足でついてくる。


「一緒に帰ろ! ね!」


 そういうことで俺と花子は一緒に帰途についた。

 手をつなぐべきか少し逡巡して、初回からフラグを立てるのは少々性急だと思い普通に横に並んで歩いていく。


 花子の家は俺の家より遠くにあるということにしたので俺は途中で別れる。


「じゃあね……今日はありがと! でも道草はほどほどにね!」


「ああ、さよなら」


『またね!』でないのはまた出すべきか悩んでいるからだ、何なら今回限りの出番になる可能性もある。


 そう考えているウチに自宅に着いた。


「ただいまー」

  

「おかえり、晩ご飯できてるわよ」


 母さんが夕食を用意していた。

 容姿は今のところ不確定だ、毎日顔をあわせる人間は調整がきき辛い、さっきの花子はもうでてこなくてもそれほど違和感を覚えないが母親が突然いなくなったり要旨が変わったら困るだろう。

 というわけで母の容姿は読者諸君の想像に任せることにしよう、詳細な情報は操作がしづらいのだ。


 だからこの母さんは読者の皆さんの分だけ存在する揺れ動く存在だ。


 夕食は何にしようかな……

 できているもののメニューを後付けで考えられるのはまだキッチンに行っていないからだ。

 食卓に着いた時点でメニューは決まる、逆に食べに行かなければ不確定要素になる。


 俺はなんとなくその日の夕食はカレーにした。


 そんなわけで今俺がキッチンの席に着いたとき目の前にはカレーが置かれている。


 肉も野菜もゴロゴロと大きめに切られた辛口カレーだ。

 このくらいは決定しても問題ないだろう、明日はまた別のモノになるのだからね。


「ご飯食べたらお風呂入っちゃいなさい」


 そういう母さんの声を聞きながらお風呂をわいていることに決定する、無駄な描写は極力省いていくのがオレ流だ。


 湯船にざぶんと浸かりながら今後のイベントスケジュールについて考慮する。


 今のところ世界は不確定なモノに溢れている。

 現在出てきたのはモブと花子と母さんくらいだ。あ、チンピラと不良も出てたな、こいつらはモブだけど……


「魔法を作るのも悪くない……かな……」


 そもそも俺自身が世界を作っているのに魔法など必要ないが、このままではライバル的存在を作れない。

 万能の神相手に現実的な武器で立ち向かうのは無理だ。

 なので俺の相手にふさわしい能力を持たなければライバルと呼べない。


 などと考えているとお湯が身体を温めたので湯船から出てパジャマに着替える。

 詳細描写? 男の着替えなんて需要がないことは分かっているので数行で済ませることにしたんだよ。


 俺は風呂から出るとさっさと寝ることにする、家庭内でイベントを起こすと整合性をとるのが大変なので自宅内では大きな事は起らない。


 俺は自室に戻り、明日は何を起こせば関心を引けるのか考えながら眠りについた。

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