第41話 一回戦へ
「いよいよ今日だな、リート、シャーロット。頑張れよ」
ウルス隊長が、リートとシャーロットの肩に手を置いて、激励を飛ばす。
シャーロットと出会ってから三週間。
いよいよ、小隊長任用試験が今日から始まる。
試験は、騎士が騎士見習いとタッグを組み、それぞれ三試合を行い、三連勝したものだけが第六位階(シックス)・小隊長に任じられるという内容だ。
試合は、決闘方式で、どちらか片方でも加護の指輪の結界を破られた時点で敗北になる。
すなわち、騎士だけが強くても試合には勝てず、騎士と騎士見習いが協力して生き残らなければならない。
なお、騎士見習いについては、戦いの中で、騎士と同等の実力があると認められた場合、臨時で騎士への登用が行われる。つまり、何か条件が決まっているわけではなく、審査員の騎士たちが戦いの中身を見て決める、ということである。
もっとも、基本的には三連勝したタッグの騎士見習いが採用されることがほとんどだ。
なので、リートにとっても、シャーロットにとっても三連勝はほぼ必須と言っていい。
「準備は万全です。必ず、勝ちます」
リートは隊長にそう宣言する。
力強い言葉を選んだのは、自分のためではなかった。
シャーロットが、実力を発揮できるようにという思いの方が強い。
特に第一回戦は、シャーロットにとって大きな意味を持つ。
今日行われる第一回戦。
リート・シャーロットペアの対戦相手は、中央騎士団のランド・デイビーズだった。
シャーロットを、小人が騎士になるなんて絶対に無理だと嘲笑った男である。
だから、シャーロットにとっては、これは彼を見返すチャンスなのだ。
勝って、ざまぁみろと、そう言ってやるのだ。
「じゃぁ、気をつけて行ってこい」
ウルスに見送られ、二人は闘技場へと向かった。
試験は、各騎士団の審査員が見守る中行われる。
闘技場には、今日試合がある騎士とその弟子たちが集結していた。
その中には、もちろん――
「お、まさか本当に現れるとはな」
――ランド。
先日リートに“雑魚”扱いされて、怒心頭だった彼だったが、今日は冷静さを取り戻していた。やはりリートたちを見下した、ヘラヘラとした表情で話しかけてくる。
「もしかしたら、尻尾巻いて逃げるんじゃねぇかと思ったが。来ただけでも褒めてやる」
リートは、そんな彼の戯言に付き合うつもりはなかった。
――だが、問題が一つあった。
ランドが連れている相方。
つまり騎士見習いの男。
それが――明らかにただの騎士見習いではないのだ。
年齢は30前後だろうか。屈強な剣士だ。
頰には、昔にできたと思われる切り傷。まさに歴戦の猛者という印象だ。
一目見て、それなり以上の実力を持っていることがわかる。
「あ、こいつ、俺の“相方”だよ。ジョンって言うんだ。見ての通り、超強いから」
ランドがそう言うと、ジョンは無言の、けれど鋭い視線をリートたちに送った。
「よろしくな」
リートはそれだけ言って、その場を離れる。
――と、目線の先に、よく知る人間を発見した。
――幼馴染のサラである。
「サラ、おはよう」
サラには、シャーロットを弟子にとった直後に連絡をとっていた。
もともとシャーロットは家を持っておらず、宿に泊まるお金もほとんどなく、月の半分以上を路上で生活していた。
その事実をランドから聞いたリートは、すぐさま自分の給料で騎士用の社宅を手配したのだが、女子寮は男子禁制だったので、サラに面倒を見てくれとをお願いしたのだ。
だからサラとシャーロットはすでに知り合いだった。
「リート、それにシャーロットも、調子はどう?」
「ああ、万全だ」
「私もです!」
「ところで、サラ。ちょっと聞きたいんだが……あの、ランドって男、知ってるか?」
リートが聞くと、サラは頷く。
「中央騎士団ではそれなりに有名人だよ」
「あいつの連れてる騎士見習い、明らかに只者って感じじゃないんだが……」
「……あれはね、いわゆる“傭兵”だよ」
サラが解説してくれる。
「傭兵?」
「そう。本当は騎士試験を受ければ余裕で受かるような人を連れて来て、お金を払って、弟子になってもらうの。それで小隊長試験を受ける。あのジョンって人、国境警備隊で10年以上勤めて、叩き上げて指揮官にまで上り詰めたって人らしいよ」
なんだよそれ、とリートは内心で悪態をつく。
「騎士見習い制度は、人材を育てるのが目的なのに、金払って強いやつ連れてくるなんて、意味ないじゃないか」
「うん。本当にそうなんだけど、割と横行してるらしい」
つまり、リートとシャーロットは、実質騎士二人を相手に戦わないといけないのだ。
「でもまぁシャーロットの目標は騎士になることなんだ。敵はちょっと強いくらいの方がちょうどいいか」
リートはシャーロットの肩に手を置いて言う。
「大丈夫、お前は十分強い。絶対に勝てる。それは――イリス王女様も認めてくれただろ?」
リートが言うと、シャーロットはキリッとした笑みを浮かべて拳を握りしめた。
「――はい!」
「よし、じゃぁ行こう」
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