第21話 降参の理由



【勝者、リートッ!!】



 審判の声が闘技場にこだました。


 ウィリアムのみぞおち、そのすんでところで静止したリートの拳。


 その拳を――ウィリアムは正視していた。

 そう――確実に捉えていた。


「いやはや、僕の負けだよ」


 頭を掻きながら言うウィリアム。


「すげぇ!! 賢者にも勝ったぞあいつ!」


「聖騎士と賢者、両方に勝ったんだぞ!? もう、あいつが最強だろ」


 会場は無職の少年の勝利に沸き立つ。


 だが、当の本人には、その声は届かない。


 ――あの眼!


 拳を捉えたウィリアムの眼は、確実にリートの拳を捉えていた。


 ウィリアムは“ファイヤー・ランス”を使えるならば、“ファイヤー・ウォール”も使えるはず。

 借り物の技を使うリートが“神聖剣”の後すぐさま“ドラゴンブレス”を使えたのと同じように、ウィリアムにもその権利があった。

 完全に技を発動させるにはギリギリ間に合わなかったかもしれないが、発動さえすれば拳の威力を半減させることができたはずだのだ。


 そうすれば勝負はまだわからなかった。


 それなのにウィリアムは自ら降参した。

 その意味がリートにはわからなかった。


「残念〜」


 右手の指先で前髪を書き上げて、その後逆の手を差し出してきた。


「完敗だ」


 爽やかな笑み。

 だがそれ尋常じゃなく不気味だった。


 リートは差し出された手を、すぐに握り返すことができなかった。

 少し悩んだ後に、ようやくそれを握り返す。


 ――冷たかった。


 いや、正確には冷たいと感じた。

 何か、底知れぬものが彼の裏側にある気がしたのだ。


 と、彼は握手をほどき、踵を返した。


 ――だが、少し歩いてから立ち止まる。


「やっぱり君の能力、すごいね」


 ウィリアムはそう言い残して、再び歩き出す。



 ――それでリートは全てを理解した。



 ――ウィリアムは俺の力を知っている!!


 そう考えると全ての辻褄があった。


 あの時、あのまま行けばリートの拳は確実にウィリアムに届いていた。

 そうなれば、リートはウィリアムが持つ力をコピーできた。


 それを阻止するために、あのタイミングで敗北を告げたのだ。


 そしてリートはこの能力のことをまだサラにしか言っていない。

 サラが人の秘密をペラペラ言いふらすような性格ではないのは、リートが一番よく知っている。だからサラから漏れたということはありえない。


 ――なのにあいつは知っていた。


 一体、何者なんだ。

 奴の正体への疑念がリートの頭の中でグルグルした。

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