第18話 手のひら返し。そして決別。
ただの一撃。
それで勝敗は決した。
同じスキルをぶつけ合ったリートとカイト。
結果は、リートの技がカイトのそれを断殺した。
【しょ、勝者、リート!!】
審判がリートの勝利を告げる。
その声色からは驚きがありありと感じられた。
聖騎士が、なんのクラスも持たない男に負けた。
それが現実だった。
――カイトが負けた理由。
それは単純だった。
リートとカイトは同じスキルを使った。つまりスキルの力は互角。
であれば、勝敗を分けるのは、もともと備わっている剣技だ。
リートは物心ついた頃から、誰よりも懸命に剣を磨いてきた。
一方、カイトは剣の稽古を早々に放棄し、街で奔放に生きてきた。
どれだけ稽古をしたか、その差が如実に出たのだ。
カイトは、地面に膝をつき呆然と地面を見た。
自分が負けたことが信じられなかったのだ。
「ウェルズリー公爵の跡取りっていうから期待したけど、意外と大したことねぇな」
「強い騎士がいい指導者とは限らねぇしな。公爵も子供には甘かったんだろ」
「所詮2代目はボンボンのあまちゃんってわけか」
そんな声が会場から漏れ聞こえてくる。
リートは、カイトを一瞥して剣を鞘にしまいその場を後にした。
†
控え室に戻ると、イリスが待ち構えていた。
「リートすごいぞ!!」
自分のことのように喜んでくれる王女を見て、リートは勝利の実感が湧いてきた。
「ありがとうございます」
カイトに勝てた。
自分の力を証明できた。
そのことがたまらなく嬉しかった。
――と、その時だ。
「リートッ――!」
突然部屋に入ってきた男。
それは他でもない――ウェルズリー公爵だった。
クラス分けの神託を受けた時から、リートは父親の怒りに満ちた表情しか見てこなかったが、その時の表情は明らかに今までと違った。
リートの方に勢いよく歩み寄ってくる。
そしてその口から出てきた言葉は――
「――お前の剣技は本当に素晴らしい」
――リートへの絶賛だった。
「本当によく頑張った。今まで稽古を頑張ってきた成果が出たんだな。素晴らしい。神託の日はもうダメかと思ったが、神様はお前を見捨てていなかったんだな。あれほどの剣技を身につけるとは!」
上気した表情でまくし立てる父親。
その姿を見て――リートの心は冷めていった。
「クラス分けは神がお前に与えた試練だったんだな」
――父親の顔を見て、リートはこれから自分が何を言われようとしているか、直感でわかった。
わかってしまった。
「――よく頑張ったぞ。お前こそが、我がウェルズリー家を継ぐ者だ! 我が家に戻ってこい!」
――きっと、それはリートがずっと望んでいた言葉だった。
父親の背中を追いかけて、
認められたくて、
ずっと稽古を頑張ってきた。
毎日毎日、必死に剣を振ってきた日々が、ようやく報われたのだ。
――でも。
「ごめんなさい――閣下(・・)」
リートは――すっと、決別の台詞を言った。
その目にもう迷いはなかった。
息子の拒絶に、父親は信じられない、という表情を浮かべる。
「――俺は、もうウェルズリーの人間じゃありませんから」
リートは、はっきりと――父に言われた言葉を繰り返す。
――もはや、父に対する思いはなかった。
「息子を騎士団長(ファースト)にしたいなら、カイトと一緒に頑張ってください。俺は俺で頑張ります」
「な、なんだとッ!!」
先程までの喜んだ表情が嘘のように、激昂する公爵。
「こ、この恩知らずが!!」
だが、そんな怒りは、リートには全く響かない。
響くはずがなかった。
カイトとの決闘に挑んだ時点で、その決意はすでに固まっていたのだから。
今更なんと言われようと、リートが父の元に帰るはずもない。
――と、それまで傍観していたイリスが公爵に言う。
「ウェルズリー公爵。もうリートがあなたと話すことはないようです。ここはお引き取りを」
王女の言葉に、公爵は露骨に歯ぎしりした。
だが、いくら公爵でも王女には歯向かえない。
だから代わりにリートに向かって捨て台詞を吐く。
「貴様……ッ! 絶対に許さないぞ! 騎士団から追い出してやる! 覚えてろよ!」
踵を返したかつての父親の背中を――リートは黙って見つめる。
公爵の姿が見えなくなったところで、イリスが笑みを浮かべてリートに語りかける。
「リート。公爵は騎士団にいまだに力を持っているそうだ。おそらく色々な妨害をしてくるだろうな」
「……ええ、そうでしょうね」
「だが、それを跳ね除ければ、お前は騎士団長(ファースト)になれる。私はそう確信している」
王女の言葉に、リートは決意を新たにした。
「――俺は必ず、騎士団長(ファースト)になります」
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