第10話 近衛騎士の反発
「さて、次は近衛騎士団のみんなに挨拶に行こう」
イリスに連れられてリートは近衛騎士専用の闘技場へ向かう。
訓練中の隊員たちがいるらしい。
「騎士団長は不在だから、今日のところは他の団員たちに。特にお前の上司にな」
――闘技場に入ると、中にいた10名ほどの騎士たちがいた。
「みんな。私の護衛を務めてくれる新しい騎士を連れて来た。紹介させてくれ」
王女が言ったことで、その場にいた騎士たち全員の視線が集まる。
「リートと申します。よろしくお願いします」
リートの言葉に反応して一人の男が前に出て来た。
「新人さん、俺はラーグだ。ヴェーン侯爵家の跡取りで、東方騎士団で身を立てて、近衛騎士になった」
ラーグと名乗った男は、切り添えられた金髪が印象的な青年だった。腰には剣を携えている。
自らの身分を名乗る様は、いかにも貴族らしい。
そして自分が名乗った後、逆にリートに問いかける。
「お前さんはどこの家から来た」
その問いかけに、リートは声を詰まらせる。
――ウェルズリー公爵家。
それが、リートの“出身”。
だが、実家から追い出された今、リートはただの平民にすぎない。
「――リート。ただのリートです。」
そう言うと、ラーグは「ほう」と唸る。
「平民でありながら、近衛騎士になるとは、よほど優秀なのか。だがその名前、聞いたことないな。どこの騎士団から来た?」
その問いにもリートは答えることができない。
代わりに王女が答えてくれる。
「この者は、今日騎士に採用したばかりだ」
――王女がそう言った瞬間、明らかに闘技場の空気が凍りついたのだわかった。
「……採用したばかり……? ではこの者はいきなり第七位階に?」
ラーグが信じられないという表情で言う。
「王女様。一体誰の許可でそんな暴挙が行われたんですか? 平民でなんの実績もない男をいきなり第七位階にするなんて、そんなことを指示したのは誰ですか」
ラーグは、詰め寄る勢いでそう尋ねる。
「“そんなこと”をしたのは、他でもない私だが」
王女は毅然と答える。
「……お、王女様が?」
その問いに、ラーグはショックを受けた様子だった。
「彼は聖騎士のスキルを持っている。実力は私が保証する」
王女の言葉に、闘技場がざわつく。
聖騎士のスキルは、騎士でも持っているものがほとんどいない超レアな存在だからだ。
ラーグは聖騎士と言う単語を聞いて一瞬黙ったが、しかしその後反論する。
「信賞必罰、それが騎士団というものでは? なんの功績もないその男を、いきなり第七位階として採用するなんて、他の騎士たちが認めるわけがありません。王女様は、騎士たちの誇りを、努力を、軽んじる気ですか?」
そう強気に聞くラーグ。
そこで後ろにいた騎士の一人が止めた。
「おい、ラーグ。そこまでにしろ。王女様に失礼だぞ」
そう言ったのは銀髪の男だった。中肉中背で30代と思われるが、年齢以上の深みを感じさせる男だった。
「ウルス隊長。こればかりはエコ贔屓が過ぎますよ。いくら王女様でも、騎士団の自立を踏みにじる行為だ」
ラーグは相当に感情的になっている様子だった。
それに対して、王女は特に怒った様子もなく、粛々と言い返す。
「エコ贔屓などではない。リートは第七位階の地位に見合った、いやそれ以上の力を持っている。だから採用したまでだ。なんなら、実力を試すか?」
その言葉に、ラーグが眉を上げる。
「――ええ。見せてくださいよ。そいつの実力とやらを」
ラーグはさらに前に出て来て、自分が戦うという意思を示す。
だが、ウルスがそれを止める。
「待て、ラーグ。お前は怪我が完全に治っていないだろう。隊長として決闘は許可しないぞ」
「――大丈夫ですよ! 怪我してても、ひよっこ相手なら問題ないです!」
ラーグは、居ても立ってもいられない、と言う感じだったが、しかし上官のウルスは首を横に振った。
「……どうしても彼の実力を確認したいと言うのであれば、私が実力を見よう」
ウルスの言葉に、ラーグは驚きの声を上げる。
「ウルス隊長自ら!?」
その驚きぶりに、思わずリートは王女の方を見た。
すると王女が説明してくれる。
「ウルスは近衛騎士団最強の一人と言われている。未来の騎士団長候補とまで言われている男だ」
リートは唾をゴクリと飲む。
精鋭が集う近衛騎士団の中でも、最強クラスの男。
いったいどれほどの実力なのか想像もつかない。
「リート君、私はウルスと言う。イリス様の護衛隊の隊長、つまり君の上官になる男だ。そして、いきなりで悪いが、うちの隊員が納得していないようなので、手合わせをしてもらえるかね」
「ええ、わかりました……」
ウルスからの“手合わせ”の申し出に、リートは緊張しながらうなづいた。
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