ダンジョン と 手段


「前衛耐えろ! 魔法詠唱まで耐えるんだ!!」

「はい!!隊長!」


 俺達は全員上層の物影から観戦をしていた。

 やはり思った通りだ。ここへ来る途中の死体の山はきっと奴らだ。


「聖天騎士団でやんす、あまり関わりは持たない方がいい連中でやんすよ」


 聖天騎士団、それが奴らの名前か。

 名前から漂う正義の執行者被れ、そんな印象を受けた。

 全員が知っている鎧を着ている、あのイノシシと隊長さんと同じ鎧を着込んでいる。

 当然、そのイノシシと隊長も絶賛頑張っているようだった。


 その相手は・・・。


キシャァアアアアアアアアア!!!!


 植物の触手の正体はこれか、大型の赤い花のモンスター。

 地面に根を張り次々と触手を出現させて騎士団を襲っている。あまりの量に連中も手を優勢とは言い難い状況らしい。

 触手のみならず、本体には鋭い大量の牙を生やした口がありそこから紫の液体を次々と噴き出していた。

 液体は地面を腐らせ、岩を溶かしその場で留まり続けている。


 主に騎士団が手こずっている理由は恐らくこれだろう。

 時間が経てば経つほどに戦える場所が限定されていく。魔法部隊が毒を取り払う魔法を使っているようだが、それを凌駕する量の毒があの大花のモンスターから吐かれている。


「・・・・・・」


 そんな中一人異質な奴がいる。

 まるで足場ならあると言わんばかりに次々と触手を両断していきその残骸を足場にしていた。

 残骸がない場合はまだ生きている触手を蹴り常時動いている。

 相変わらず目で追うのが大変な奴だ。金の髪を揺らしながら優雅に戦っている。


「・・・あ」

「ん・・・」


 一切戦闘に集中していないのか、それともまた俺の悪臭で気が付いたのか、目が合った。

 盗賊達に念の為に遠まわしに聞いたが、今の俺は前のようなドブ臭い臭いはしない。

 やっぱりあのイノシシだけが別格なのだと確信した。


 だが、目が合っただけで再び戦闘に戻っていくイノシシ。


「隊長! 撃てます!」

「よし!! 一斉に放て!!」


 魔法部隊がついに動く。

 俺の魔法と違い、地面に円形の魔方陣が次々と姿を現した。

 全員が赤い魔方陣を展開している、つまり属性は恐らく炎。


「フレイムシューター!!」

「ファイアバレット!!」

「ストームヴォルケーノ!!」


 大花モンスターに次々と炎魔法が飛び交う。

 絶え間なく降り注ぐ魔法に大花モンスターはまるで為す術無く次々と触手を燃やし本体へとダメージを許していく。


「これで終わらせるぞ! 突撃!!!」


 うわぁあと大声を上げながら騎士団は一気に本体に攻撃を開始した。

 前衛部隊もアイテムを使い炎のエンチャントを付与し突撃していく。ある意味で凄い光景だ。

 まだまだ炎魔法は飛び交い、地上はあのイノシシが意図して作ったのかは定かではないが触手の残骸を足場に次々と炎の武器を手に一斉攻撃を開始していた。


シャァアアアアアアア!!!!!


 大花モンスターの悲鳴が洞窟ダンジョン内に響き渡る。

 当然、効果は絶大なのだろう。

 本体も次々と燃えだし、このままいけば何事もなく戦いは騎士団の勝利で終わりそうだ。


「ひぃ!」


 触手の残骸が上層のこちらまで飛んできた。

 俺は念の為、飛んできた触手に触れる。


(これは・・・)


 文字は相変わらず化けていて読むことは出来ない・・・。

 だが、俺は嫌な予感を感じ取った。

 前回の触手と今回触れた触手では文字の化けている部分が違っていた。

 俺はそれをメニュー内で並べる。




- ?”#$‘? の残骸 -


- 寄*$#女#}%物 の残骸 -




「まずいな」

「何がでやんす? このままあいつ等があれを倒してくれたら素材だけ貰ってとんずら構えせましょうや!」


 仮に俺の予想が当たっていると、最悪ここにいる俺以外の人間が全滅する可能性がある。

 まぁ正直そうなろうが俺には関係ない。もしその予想が当たっていれば、"俺だけは"嬉しいし。



「目標、残り体力一割!」

「全騎!最後の一押し!やれぇ!!」


 最後のラッシュが始まった。

 魔法部隊も大技を繰り出そうと詠唱に入り、前衛部隊も再び炎のエンチャントを付与しスキルを使用しているのかわからないが大技を繰り広げていた。


「・・・・・・」


 ふとイノシシの姿が目に映った。

 他の連中と同じように大技の一つや二つ放っていると思ったが、何やら遠くから静観している。

 手柄をみんなに渡すとかそうゆう奴か? あのイノシシがそんな気使いが出来る女とは思えないが・・・。


 いや、もしかして・・・あいつ、俺と同じ事を考えてるのか?


 イノシシの行動からまさかと俺は身構えた。


 もしかしたら・・・予想が・・・。






キシャァアア・・・。

















ハァアアァアアアアアアアアアンッ!!!!!!












「な・・・っ」

「なんで・・・」


 大花モンスターへと最後のとどめを刺した瞬間だった。

 萎れた花の中から巨大な女の上半身が声を上げながら現れた。


 俺の予想はどうやら敵中したらしい。


「全騎!撤退!!!!!」


 隊長さんは声を荒げた。

 団員も次々とあの植物の擬人化のような姿をしたモンスターいや・・・ディザスターから逃げていく。


「あ・・・あの花・・・髪の毛が花になってる植物女、何で」

「やっぱりあれが神災に現れた奴か」

「そ、そうでやんす・・・みんなで命辛々逃げた奴、仲間を大量に殺した奴です!!!」


 恐怖心を持ちながらも憎いという顔をする。

 無理もないか、仲間想いの連中だ。出来ることならきっと仇を取りたい、そんな思いが有っても当然か。


「グランドブロック!! ぐぼぉお!!」

「早く逃げろ! 今の装備じゃ無理だ!」


 団員の一人がスキルで地面から壁を作り出したがディザスターの攻撃を防ぎきることができず、壁を貫通され、そのまま負傷していた。


 どうやら奴の攻撃は基本的にはあの大花モンスターと変わらないみたいだな。

 だが性質が一気に変わった。



ハァアアアアアアアンッ!!!!



 死骸となっていた触手が再び動き出している。

 更に大花モンスターのように鋭い牙に毒攻撃も出来るように強化されている。


「撤退だ! 死傷者の救助を最優先にしろ! ユリス!触手を出来るだけ引きつけろ!」

「うん」


 イノシシが再びディザスターへ向けて突撃をかける。

 隊長さんの指示通りディザスターの注意を殆ど請け負っている。

 




「ちっ」


 つい舌打ちをしてしまった。

 ディザスターの攻撃は全て避けられていた、毒攻撃も触手の噛み付き全てあのイノシシの速度に追い付いていない。

 願わくばこのままここで死んでくれないかと祈るばかりだ。

 あのボスのように後遺症でも残ってくれればこちらとしては万々歳なんだがこの調子だといい成果は上げられそうに無いか。


 ディザスター頑張れ、なんでそこで毒攻撃を使わない! もっと回り込め! 視界外から攻めろ!

 また触手がやられた。


 だが触手はすぐに自己再生をしているから問題ないが、時間の問題か。

 ここでイノシシを倒すチャンスは部隊が撤退するまでの間だ。

 その間にあのイノシシに毒攻撃の一つや二つ当ててくれれば・・・。


 俺が直接援護さえ出来ればいいのだが、直接的な攻撃は出来ないし、まだこっちが見つかっていない状況でもしディザスターがこちらを向いてしまって場合の事を考えるとイノシシの負担を軽減しかねない。



(いや待てよ・・・)



 俺はすぐにメニューを開いた。

 確認しているのはついさっき手に入れたスキルだ。

 詳細説明を確認する。



 これだ・・・!!!



「あ!? 何してるでやんす!? 騎士団手助けするんでやんすか!?」

「まさか、その逆だ」

「はぁ!!!!?」


 俺は右手に前へ突き出す。


 行け、俺の新スキル!




「・・・えっ」



 遠くからでもわかる。

 あのイノシシがハッとなった表情が。

 そして思った通り、俺のスキルは無事に発動したようだ。目で追うのが大変だった動きが一気に失速した。


「くっ・・・!」

「ユニス!!」


 イノシシはその場で足を止め迎撃する形を取っている。先ほどのように次々とポジショニングを変えてディザスターの攻撃を掻い潜るのは難しくなったようだ。


「えぇ・・・まさかあんた、あの『冷血のユニス』に何かしたんですか?」


 冷血のユニス? そんなのもの知った物か、今ここで死ぬかもしれない奴の二つ名なんて興味がない。

 そうだ、何かしたかどうかと聞かれれば何かしたさ。


 俺のスキル交遊せし手玉は、簡単に説明する強化や弱体を入れ替えるスキルだ。

 強化状態ならそれ相応に弱体化させ、弱体化の状態ならその分強化されるという物。

 その名の通り状態異常を手玉取るスキルだ。

 予想通りあのイノシシの尋常じゃない速度はスキルか魔法による身体強化。

 そして俺は今回直接的な攻撃をした訳ではない。代償の判定は恐らくは援護扱いのはず。


 つまりは俺がやったスキルは攻撃ではない援護。その援護が原因で食われ様が溶けようが毒され様が、俺が直接手を下したわけではない。


 完璧だ、完璧な嫌がらせだ・・・。



「あれ、これ・・・?」

「ん?」


 イノシシの様子が変わった。

 何やら攻撃手を緩めた? いや、一部の攻撃に対して抵抗しなくなった?


 よく俺は奴の行動を確認する・・・と。


ベチャッ・・・。


 イノシシの全身が、紫の液体塗れになっていた・・・。



(しまったぁああああああああああああ!!!!!)



 俺は頭を抱えた。

 なんてことだ、まさかそうなるのか! そうなっちゃうのか!!

 俺のやったスキルは・・・毒を・・・。


「これなら・・・」


 有益な液体へと変貌させてしまったとでもいうのか!!!


 最悪だ。

 またやってしまった、こうなる可能性なんか考えられただろうに。

 奴の首を絞めるつもりが、まさか手助けをしてしまっていたなんて。

 

 明らかにイノシシの動きが変わっていた。俺のスキルを受けた当初は戸惑いながら迎撃していてあと一歩まで来ていたのに。


 今はもう毒攻撃を受けまくってるどころか自分から毒に当たりに行ってるよ・・・。

 なんだあれ、逆にめちゃくちゃ生き生きし始めたよ。

 あれか、毒の効果で常時回復でもしてるのか。さっきから攻撃を受けてもピンピンしているぞ。


 そりゃあそうか、あのボスが長い間苦しみ続けたっていう猛毒の効果を逆さにしたんだから。


「はぁ・・・」

「え・・あの、よくわからないでやんすが、元気出して下さいでやんす」


 こうなったらもうやめだやめだ。

 俺は立ち上がって姿を晒す。


「アロー・・・」


 気持ちが全く入らずに左手にアローに形成させた。

 右手には巨大な螺旋状の矢を作り出す。

 特別狙いを定めること無く俺は、すぐに矢を撃ち込んだ。


アァアアアアアアアアアアアアア!!!!!


 植物女のディザスターの悲鳴が聞こえると同時に姿が消えていく。


「え・・・」

「ディザスターが・・・消えていく?」


 これから撤退をイノシシに伝えようと顔を出した隊長さんが目を見開いて驚いていた。

 ここにいる全員がディザスターの消滅を唖然と見守っていた。

  



- 寄生女植物の素材×10 獲得 -


- 硬鋼のつる 獲得 -




 はぁ、無事にディザスターを倒せてよかったよかった。

 よく見ると忘れていたあの少年もディザスターの消滅した体内から出てきた。

 パッと見、毒を受けている様子も無いようでよかったよかった・・・。



 はぁ・・・。



 俺は溜息を吐きながら驚きを隠せないでいる盗賊達を背にその場を後にしたのだった・・・。







「・・・・・・」


「どうしたユリス」


「別に」



 ユニスはレーグが居た場所を見つめていた・・・。







・  ・  ・






「「「「かんぱぁああああああい!!!」」」」



 俺はダンジョンを出てから盗賊達にボス復帰おめでとうプラス、ディザスター討伐やったぁーの飲み会に招かれた。


 気分はあれからずっとブルーだった。

 あそこでもう少し頭を使えばあのイノシシ女を殺せたと思うと喜ぶに喜べない。

 また何処かで奴と出会う可能性があると思うと頭が痛くなる。

 どうにかして対策を講じなくてはならない。

 話しがまともに出来るような人間とは思えないし下手な事をしたらこっちが奴隷だとバレる可能性が高まり俄然不利になる。


 そう考えると奴を殺す絶好のチャンスを俺は手放してしまったというのか・・・。


 神災の隙に強敵を殺す手段は悪くないだろう。

 俺にとって神災は痛くも痒くもない、今回のあのディザスターの件で改めて実感できた。


 そして今回の神災でもないのにディザスターが現れた原因はあの文字化けしたアイテム素材の詳細説明で納得した。

 文の一節に、『他植物に寄生する性質のあるディザスターの素材』と書かれていた。

 単純な話し、数日前に起きた神災の時にあのディザスターが何かに寄生したのだろう。

 神災事態は消えたが神災時に生み出した物は消えることはない。つまりはディザスター作りだした卵のような物は消えないということなのだろう。

 神災の後遺症とでも言うのか、盗賊のボスの毒も同じということだ。


 もちろん確定事項ではないが、今後の事もあるから覚えておいた損はない。


「おう! 飲んでるか旅人!」


 酒の入ったコップを両手に持ち俺の右側へ座り、片方を差し出された。ふと今日の失敗は酒を飲んで忘れようなんてセリフが脳裏に浮かんだ。

 何処のご主人も同じように飲みまくってベロンベロンになっていたことを思い出す。


「頂く」


 酒を貰い一気に飲み干した。味なんて全くしなかったしこんなんで今日の失敗を忘れる事ができないと確信した。


「ほぉー! すげぇ飲みっぷりだな、じゃんじゃん持ってこさせるか」

「いらない」


 こんなことを続けても後悔は戻らない。

 料理を口にしてた方が良さそうだ。

 味は全くしないが・・・。



「んでよ、お前さんイーガルに何しに行くんだ?」

「情報収集、神災に関しての情報が欲しいだけだ」


 改めて考えれば、別にイーガルという村に向かう必要もないか。

 こういった外れの盗賊達のアジトでも人はいる、そして人がいれば少なからず情報はある。

 それを今口にしているおつまみのように少しずつ摘んでいってもいいのかも知れない。

 

 早速ボスに話しを持ち掛けた。


 だが悩む顔が続いていた。この調子じゃあ有力な情報は手に出来そうにないな。


「んーー、ここ等だとそうだな、お前さん地図はあるか?」


 以外にも脈ありか?

 すぐに奴隷紋から地図を取り出しボスへ渡す。

 するとボスは一つの街を指差した。


「少し遠いが、ここの街『グインズ』って大きめの街があるんだが、最近ようやく重い腰を上げたお国様の申請で対神災特別本部とか言う物を創設するって話を聞いたぜ?」


 めちゃくちゃ有力な情報じゃねぇか。

 あのイノシシに出会ってからここままで植物ディザスターを倒したくらいしか喜べそうな事がなかったのに、まさかのここへ来て俺の目的が前進するとは思わなかった。


 このボスを治してやってよかったと心底思った。

 あの子以来初めて人に感謝した。


「だがな、あまりオススメしないがな」

「何かあるのか?」


 ボスは俺の方に顔を向けた。

 目線は部下達が見ていないかの確認をしていた。


 そして・・・。


「お前さん、これだろ?」


 自分の左頬を指で軽く叩いた。

 俺はその意味をすぐに理解し背筋が凍った。


 左頬、つまりは、奴隷紋の事を指している。


「まぁ、違ってもいいがな。グレイズは"それ"を使って非合法な事をよくやってるってもっぱらの噂があるんでね。お前さんなら大丈夫だとは思うが、行くなら用心しておいた方がいい」


 それ・・・つまりは奴隷を使ったということを言いたいのだろう。

 非合法か、特に驚くことはない。元々奴隷なんて物はなってしまったが最後、人間扱いなんてされないんだ。

 それはこのスキルが証明している。むしろ俺の事をそうかもと思い好意的に接してるこの人の方が異例だと俺は思う。


「助かる」

「いいってことよ、なんだろうと命の恩人に変わりはねぇんだからな」

「なら・・・感謝ついで一つ聞きたい」


 言い方は悪いが利用できる物は利用させてもらう。

 このボスが善意で接しているのはわかるが、今の俺の現状も理解しているのであれば聞いてみる必要があることが一つある。


「"それ"専用のスキルがあるって、聞いたことはあるか?」

「スキル? そんなの持ってるのか?」


 反応から察するに奴隷の逆神については知らないようだ。

 つまりはその代償も知らないとなれば肩の荷が少し下りた思いだ。

 このボスが知らないとなると、少なくても部下達も知らないのだろう。


「まぁ、それ関係を調べててね」

「ほーん、わかったら教えてくれよな? まぁ俺はお人形遊びは興味ねぇーがな」


 お人形・・・か。

 確かにその例えは強ち間違ってないな。

 奴隷なんて人間にとって玩具も同類、どう使おうが持ち主の自由でありこの奴隷紋のおかげで買い主には手出し出来ない。もしそんな行為を行おうとするなら・・・。


 ん、待てよ。


 自分で言っておいて違和感になんで今まで気付かなかったんだ。

 それってスキルの代償と似ている、いやむしろ逆だ。


 奴隷紋の力がスキルとして発動している?

 基本的に奴隷紋は契約者、様は買い主に危害を加えないようにする為の処置。

 そして奴隷の逆神は・・・まるでこの世界全体が買い主のような・・・。


「ふっ・・・ふふふ」

「ど、どうしたんだ、そんな口角上げて」


 そうか・・・そうゆう可能性もあるのか。

 この奴隷の逆神は元々ある奴隷紋の力を増大しているようにも見える。

 あの時強制解放となっていたが、あれは何かがはち切れたから起きた物なのかもしれない。

 大きな風船が割れたような物だ。元々抑え込まれていた物が一気に破裂したような物だと仮定すると。


 奴隷紋は・・・何かの増幅装置?


 俺は今まで、元々無かった力をスキルで与えられた物とばかり思っていたが違う。

 力を全て封じ込まれていたのか。会得していた物が使えず全てを隠されていたという解釈もできる。


 奴隷の逆神は、ただの合図。何かがある一定にまで膨れ上がり超えた瞬間に解放される物なのかも知れない。



 そうなると・・・そうなると・・・。



 駄目だもうこれ以上は俺の頭じゃあ思い付かない。ここから先は材料が足りない。

 ならその材料を手にするにはと、俺は一人の顔を思い出した。


 出来ればあまり考えたくもない人間の顔を・・・。





「ん~~それは私かな~? レーグ君くん」

「っ!?」


 目の前に俺の知らない小太りの男が立っていた。


「何処から入ってきやが」

「失礼失礼、私は彼の知人でね、ねぇ?レーグ君」


 突然の事に思考が止まった。

 小太りの男は右手で狐の形を作り俺に見せ付けていた。

 すぐにこの男の正体がわかった。


 ローズマリエスだ。


「ちょっと近くまで来たので、顔を出したんだが。また面白い事をしたようだねレーグ君」


 何度も何度も俺の名前を連呼するローズに苛立ちを覚える。

 というよりもこいつと別れた時に言った言葉を思い出すも今の俺では手も足も出ない。

 

 でもローズの登場は好都合だと俺は立ち上がる。


「ボス、お別れだ。また何かあれば寄る」


 俺はそれだけ告げローズと共に盗賊のアジトを後にした。

 それが望みだったのか、ローズも何も言わずに俺の後ろを付いてきてアジトを出た・・・。

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