傷痕 と 残骸


「うわぁっ!?」


 吹き飛ばされ何とか受け身を取って着地をした。

 着地地点はまさかの最初の位置だった。少年が森の中から吹き飛んできた俺を見て驚いていた。

 当たり前か、俺でも流石に急に森の中から人が飛んで来たらビックリもする。


 それにしてもそろそろ堪忍袋の緒が切れる。

 ここまで好き勝手やりやがるのがとにかく腹が立ってきた。

 あの女騎士、無表情でいやがるがその表情の奥が見えたような気がしてならない。


 笑ってやがる。


 俺が勝手にそう思っていると思われるかもしれない。

 だが、そう考えてしまった時点で更に腹の虫が治まらなくなってきた。

 前に抱いた怒りとは違うベクトルで感情が高ぶる。


「へへへっ」


 口角を俺は上げた。

 いいことを思い付いた。俺は奴を殺す事は出来ない、ましてや攻撃することも基本的には出来ない。


 なら・・・嫌がらせだ。



ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!



 またとてつもない音を出しながらこっちに近付いてくる。

 何なんだ、勝手に人を吹き飛ばしておいて自分で追ってるなんて、玉蹴りのボールじゃないんだぞ俺は。

 いや、一回だけなったことがあるような気がするが・・・。

 

 今はそんな事はどうでもいい。


「シールドッ!」


 俺は右手と左手両方にシールドを形成する。

 迎撃の構えを取る。


 ドンドンドンと音が接近してくる。

 この音が一番近くなる瞬間が奴が来る合図だ。見極めるならぬ聞き極めるんだ。


(音が・・・止まったっ!)


 その瞬間超速度で息もあがっていない女騎士が森の中から飛び込んできた。構えて無ければめちゃくちゃな図だ。

 何も見えない森の奥から急に剣を握りしめた女が飛び込んでくるんだからな。 



ガギィィィイィィイイイィイィンッ!!



 剣と両手に構えたシールドの激突音が再び響き渡った。

 魔力が切れてきたのか?両手が激突の瞬間痺れたような感覚に襲われたような気がした。

 だが・・・今はそれよりも先に、奴が次の行動を起こす前に!


「グラスプ!」

「え?」


 両手のシールドを変形成させる。

 俺の両手が白く光る魔力に包み込まれ大きな手に形成された。


 そしてそのまま女騎士が突き出している剣を思いっきり握り締めた。


バギィィ!!!!


 盛大に破壊してやった。


 これが俺の抵抗、最後の足掻き。予想通りだった。

 俺はこいつに攻撃することが出来ない、直接ダメージを与える事は出来ない。

 ならこいつの攻撃力を無効化すればいいだけの話だ。見た限りではこいつの得物は今俺が壊した剣のみ。

 体術で攻めてくる可能性もいくらでもある。


 だが最初に考えた通りこれはただの嫌がらせだ。

 この女がこの剣を大切に思っていればいるほどに効果は絶大なはずだ。


「・・・ん」


 砕け散って折れた剣を一目見てカランと簡単に捨てた。

 思った以上にそうでもなかったみたいで拍子抜けだ。


 無表情に見えてほんの少しだけ眉間に皺が寄ってるのが俺にはわかる。

 つまりは俺の勝ちってことでいいな、間違いない。


「ソード」


 今度は両手をソードに形成させる。

 右手を女騎士に向ける。俺の勝利宣言のような形に見せた。

 

 女騎士は当然のように体術の構えを見せていた。


(ヤバい・・・今ごろになって気が付いた・・・俺馬鹿だ)


 今からこの女は殴る蹴るをしてくるのは間違いない。

 つまりは俺はその攻撃を今形成したソードで防ぐ事になる。

 やってしまった・・・。

 一歩間違えればそれが直接コイツへのダメージになる可能性が出てくる。ここへ来て俺の最重要天敵が判明した。

 今後は格闘家とか拳を使うような人間と戦えなくなった事が今判明したのだった。


 後先考えずに行動はするな。良い経験になってよかった。


 とはいえどうしたものか、襲いかかられた瞬間にシールドに変形成させて応戦・・・。

 それは悪手な気がする。

 最悪コイツが奴隷の逆神の代償を知っていたらまずい。こっちが手を出せないのをいいことに一気に畳み掛けてくるに決まってる。


「来ないの?」


 行きたくても行けねぇーんだよこの野郎。

 表情変えずに首を傾げてコイツはもうムカつくな。

 この大陸にはあの子以外の女というのはどうしてこうもめちゃくちゃな奴ばかりなんだ。

 ローズにせよこいつにせよ、どれだけこちらの気持ちを逆なですれば気が済むんだ。


 

 頭の中でにっちもさっちもいかなくなった時、まるで救いの手が舞い降りた。



パン!パン!パン!


 手を叩く音が聞こえた。

 音が鳴る方向を見たら、また別の女騎士が姿を現した。

 金髪の次は短い茶髪の女騎士、さっきまで戦っていたイノシシ女と比べて顔以外の部位に鎧を着込んでいる奴だった。


「はい! はい終わり! ユリスストップ!本当にもうやめて!お願いだから!」

「違う、コイツ・・・盗賊」


 俺を指差すな。

 ユリスって言うのかこの金髪イノシシは、一瞬人間であることを忘れてしまいようになった。名前という概念が薄れていた時期が長かった影響なのか。

 まぁ、いい。ソードは念の為に降ろさないで様子を見ることにする。


「違います!! この人は僕を助けてくれた冒険者さんです!」


 少年がようやく間に入って説明してくれた。

 助けた・・・かどうか少し自信がない。むしろ俺は盗賊に引き渡そうとしたのだが。


「嘘、だって臭うもん」


 臭うってなんだよ。

 まさか嗅覚の事を言っているのか? とんでもないことを口にし始めたぞこいつ。

 確かにまだあの日々の臭いが残っていてもおかしくはないのはわかるが、念の為にローズに会う前にあそこで使っていた消臭の魔石は今俺の手元にある。

 必要以上に使用して消していたつもりなんだが。


「本 当 に !! 申し訳ありません!! どうかギルド本部には!くれぐれもどうか!! この通りです!!」

「謝る必要ない、それにこの人強い・・・んっ」


 茶髪の騎士さんがイノシシの頭を掴み一緒に頭を下げ謝罪をしてきた。

 何度も頭を上下に動かしていた。

 

 それを見てようやく俺も両手のソードを解除した。

 昔の自分を見ているようで一気に冷めた。奴隷になりたての頃に同じ様な事をしてた、やらされてた記憶が蘇ってきた。

 その後すぐに売られたような気がするし俺は目を背けた。


 それにしてもギルド本部という単語は聞き覚えがあった。

 確か冒険者の元締めのような場所だったかたしか。

 定かではないが、そうだと考えるとこいつ等はやっぱり騎士とかなのだろう。少なくてもそのギルドに所属する冒険者では無いのがわかった。


「はぁ」


 一気に気が抜けた。溜息をするのは何年振りか。

 たった二日でこれだけの事を経験するなんてって考えると本当に先が不安で増していく。

 こんな事はこれっきりにして欲しいと思うのは傲慢なのか・・・。


 心の中でまた溜息を吐いてしまった・・・。










バァアアアアアンッ!!!



 地面が吹き飛んだ。

 俺に猶予を与えないように次から次へと。

 音が響いた方向にゆっくりと目線を送ると無数の動く植物のようなの触手が生えていた。

 







「うあぁああああああ!!!!」


 触手の一本が少年に巻き付き宙へと持ち上げていた。

 俺はただそれを見上げるだけ見上げていた。

 この植物はモンスターの類なのだろう。少年も大変だな、昨日盗賊に誘拐され今日はモンスターに誘拐されるなんてな。何か恨みでも買われてるのか。

 

「あぁ!! お坊ちゃん!」

「っ・・・あ、剣・・・」


 茶髪は大きな口を開けてイノシシは腰から剣を抜き出そうとしていた。剣がない事を忘れながら自ら捨てた剣に目線をやっていた。

  そんな事をしている間に少年は飛び出した地面へと引きずりこまれようとしていた。


「フォルト隊長、剣貸して」

「はぁ!? あんたまた壊したの!?」


 イノシシの言葉に怒りながらも剣をすぐに手渡していた。

 フォルト隊長、つまりあのイノシシの上司なのか。まぁあの態度を見れば察しはついていたが隊長だったのか。

 苦労しそうだな。あの手慣れた謝罪を見るに日常茶飯事というのが目に浮かぶ。



 そしてイノシシが早速触手相手に突撃していった。

 俺と戦った時のように次々と触手を斬り裂いていき少年の元へと突っ込んでいった。


 少年はというと大声で助けを求めていた。その助けであるイノシシも善戦しているが、今の調子だと少年が先に地面の中へと消えていきそうだ。


「ちょっ! え!? あなた・・・! えぇ!!? 戦わないんですか?」


 隊長さんが俺を何度見したのかわからないくらいに目線を送った。

 俺が参戦しないのがそんなに不思議なのか? もしかして戦った方がよかったのか?

  

「なんで?」

「なんでってなんで!!? えだって! えぇ・・・????」


 そうか、隊長さんは俺が少年を助けたという認識だった事をすっかりと忘れていた。

 またやってしまったか。どうもあのイノシシと戦った疲労で判断がめちゃくちゃになっているのか。

 わかった、これが疲労というやつか。


 だとしたらこんなにも厄介な物なのか疲労とは。


「ソード」


 やる気だけでも見せておけばいいのかと、ソードだけは形成させておいた。

 正直な話もう俺が走ったところできっと間に合わない。


「うわぁああああああああああああ!!!!」


 ほらな。

 思った通り、イノシシは間に合わなかった。

 少年は触手に絡め取られて無事に地中の中へと引きづり込まれていったのだった。

 これであの少年に付き纏われる事が無くなると思うとほっとする。


「あぁああああ!!! なんでこんな事に!!」

「ごめん、取り逃した。あれ多分隊長の言ってたモンスターだと思う」

「やっぱりかぁああ!! ユニス行くよ! すぐにみんなを連れて来るよ!!!」

「うん・・・」


 まるでこの世の終わりかのようなリアクションの隊長。

 涼しい顔を保ち続けているイノシシ。


 そして何もなかったとただ立っている俺。


「・・・・・・」


 イノシシが俺の横を通った瞬間こっちを見た。

 一瞬だったから定かではないが、また臭いを嗅がれたような気がした。

 本当にイノシシから生まれた人間なんじゃないかと疑ってしまう。

 俺が知らないだけで特徴的な部位が無い獣人種の亜人がいるのかも知れない・・・。





「ふぅ・・・」


 ようやく一人になれて一息ついた。

 俺は記憶力の欠落もあるしと、一度頭の中を整理していた。ほとんどが臆測ではあるが一先ずは考えることにした。

 茶髪の隊長フォルト、金髪のイノシシ女ユリス、付き纏われた少年クロディス。

 隊長さんとイノシシは同じ組織に所属しているのは二人の会話や着てる服、というよりも鎧でもわかる。

 基本構造は同じで銀色の、胸には同じエンブレムのような物が刻まれていたから二人の関係性はほぼ間違いないだろう。

 

 何故彼女達がこんな何も無いただの通り道に姿を現したのか。

 それは恐らくあの少年であろうか。隊長さんが坊ちゃまとか言っていたから隊長さんとは知人であると思われる。


 そしてその坊ちゃまこと少年は・・・。


「貰っておくか」


 少年を攫っていった植物モンスターの残骸。

 あのイノシシが最後に変な事を言っていたような気もする。隊長の言っていたなんとやらと。

 あの二人はこのモンスターを知っている? 普通のモンスターのような気もするが・・・。


 そんな疑問をモンスターの残骸が払拭してくれたのだった。



- ?”#$‘?植物の残骸 ×1 収納 -



 奴隷紋の表示がおかしくなった。正確には収納情報が読めない。文字が化けている。

 何かのスキル? 詳細説明欄も文字が化けてしまい効果も何も読めなくなっている。

 これは一体・・・。色々な事が考えられる。

 なら・・・。

 


「何か用か?」

「ひぃ!?」


 人と目が合った。森の物陰に隠れ俺の事を見て声かけられて驚いている。

 格好から察するに・・・こいつは昨日の盗賊か。


 バレてしまって観念した様子では無くもじもじとしながらこちらへと近付いて来た。なんだかその仕草が気持ち悪くて腹が少し立った。


「あああんた、ぼぼ冒険者じゃー・・・ないんですよ、ね?」


 流石にどのタイミングから見ていたのか見当も付かないが、この口ぶりからして結構前な気もするな。コイツの視線を感じられなかった、と言うのもあのイノシシとやりあってたんだ。今の俺には少し厳しい。


「だとしたら、なんだ」

「えっと・・・その・・・ですね」


 もじもじが一向に変わらない。面倒になってきた。

 俺は細見で気弱な盗賊の癖にあまり肌を出していないし、とそんな事を考えながら俺はその男の前まで行く。

 よくよく見ても肌も手入れをしているのかしっかりとしている印象も出てきた。

 


 一先ずは試し、代償覚悟でやるか・・・。






・  ・  ・






「報告でやんす! 聖天騎士団の奴らイーガルに到着した見たいでやんす!」

「そうか・・・森の主をやったって奴は」


 一人の盗賊がベッドの上でもたれ掛かっているガタイの良いボスのような人間に報告をしていた。


「俺のことか?」

「そうでやんすこのマント来たいけ好かないで奴でやん・・すぅう!!!??!?」


 出っ歯の盗賊が俺を見て驚いてるが構わず俺は周囲を見渡す。

 盗賊のアジト。というところなのだろう、岩壁の洞窟の中を根城を構えているらしい。

 内装は想像していたよりも整っているように感じる。

 モンスターの皮使ったフワフワのカーペット、壁には骨の顔や武器。


「なんでコイツが来てるでやんす! 指示は調査だったはずでやんす!!」


「すいません・・・自分、お嫁に行くことになりそうで」


「顔背けて何言ってるんでやんすか!!?」



 なんだがイメージしていたのとは違う。もっと汚くて清潔感の無い物だとばかり思っていた。

 元ご主人達の見様見真似でやってやった盗賊だってそうだが予想以上に盗賊という道を選んでも以外にやっていけるということなのだろうか。

 

 まぁ世界中の盗賊がこいつ等と同じというわけではないか。


「で、何か用か旅人。観光ってんなら場所を選んだ方がいいぞ」


 間違いなくこのアジトの主、この盗賊達のボスと言った奴が俺を睨む。

 旅人か、今度からはそう名乗ることにするか。ある意味では間違いではないしな。


「話しはある程度は、コイツに聞いた。数日前ここ等一帯に、神災が起きたってな」


 このアジトに来る前、案内したアイツに事情をある程度聞いてみた。

 数日前、この森を覆い尽くすように空が赤く染まった。

 神災。俺が求めているもの。それがここ起きたという話だ。


 そんな事だけならすぐにでも俺はイーガル、または別の村や町へと行く。

 だが、今回はそういう訳ではないらしい。


「神災後に出てきたっていうモンスター。その詳細を教えろ」

「ふんっ、なんだ? 旅人は盗賊の俺達を助けてくれるってのか?」


 優しい、そうかこいつ等からするとそう映るか。せせら笑いをしているがあながち本音なのかもしれないな。

 俺は盗賊のボスの元まで足を運びメニューを開きある物を取り出す。



- 嘲笑魔女の素材 ×1 抽出 -

 


 あのディザスターの素材だ。

 素材と書かれているから何かの武器や防具に使う物と思っていたが詳細説明を見てこれは素材として使用以外にも消費アイテムとして使えるのがわかった。

 俺はそれを手に取りボスへと差し出す。


「あん? 何だ」

「毒味、治ったらいいな」


 聞いた話ではボスは勇敢に戦い部下達と共に逃げ果せた。その時にディザスターの攻撃で致命傷を受けた。

 ただの傷なら魔法とアイテムで回復出来るはずが、一向にボスの傷は治らないようだった。

 多くの治療法を試すも治る気配が無いらしい。


 差し出すアイテムを手に取るかどうかまだ躊躇している。

 当然と言えば当然か。


「ボス! 騙されちゃいけないっす!」

「それよりもこいつ一気に締めましょうぜ! 話し通りいけ好かねぇ奴ですぜ!!」


 外野が騒がしい。

 内装やら何やらで見直したつもりではあったが、やはり盗賊は盗賊。イメージ通りというところなのだろうか。


「いいだろう乗ってやる」


 俺が取り出したアイテムをボスは手にした。形は魔石、ただ色合いが少し特殊でローズの場所で出した時と同じく不気味な配色をしている物だ。

 この場にいる全員が固唾を飲む。


 ボスは片手にアイテムを乗せたまま目を閉じた。

 すると魔石が徐々に光り出した、光はまるで傷の詳細をわかっているかのように次々とボスへ入り込んでくる。


 おぉおとまさに神秘の力を目の当たりにしているかのようにさっきまで騒がしかった盗賊達が口を開けていた。

 かくいう俺も口を開けてその効力に小さく口を開いていた。


「ど、どうでやんすか?」

「・・・った・・・」

「ん?」


 あまりの小声で聞き取れなかった。



「治ったあぁああああああ!!!!!!!」



 急に立ち上がり両手を高く突き上げ、胴体に巻いていた包帯が何故か吹き飛んだ。

 高笑いをしながら雄叫びを上げている、人間って本当にうれしい時ってこんなに喜ぶモノなのか・・・。



「ん?」



 奴隷紋が一瞬光った?

 何かあったのかとメニューを開く・・・。



- スキル 『交遊せし手玉』 解放 -




 スキル?

 なんでこのタイミングでスキルが解放されたんだ?


 自分の身体を見るも何かあったわけではない、それにいつぞやのような神災時でもない。

 何かの条件を満たしたのか俺は?全く思い当たる節が無い。


「傷物になる前よりも遥かに元気になった気分だぁあああ!!」

「ボスバンザーーーイ!! バンザーーーーイ!!!」

「ボスが・・・ボスが・・・でやんす!!!」


 宴だ宴だと大はしゃぎの連中だった。

 そんなに喜ばしい事・・・ではあるか、流石にそれくらいわかる。

 彼等にとってこのボスがどういった存在なのかはわからないが、少なくてボスはこの部下達に大事にされているというのはよくわかる。


「で、本題なんだが・・・」


 お祭りでも飲み会でもダンスパーティーでも後で好きなだけやってくれ。

 俺はとにかくあの植物モンスターについて聞き出したいんだ、お望み通りボスの傷とやらは治してやったんだ、あとはこっちの望みも叶えてもらいたいものだ。


「そうだったなすまねぇ」


 ボスは改めてその場で座り、真剣な顔で俺を見た。


 そして・・・ようやく話しをしてくれた・・・。






・  ・  ・





 アジトを後にしてから俺は地下へと向かっていた。

 目的もモンスターはそこにいるという、盗賊の何人かに案内され移動している。


「ダンジョン・・・か」


 俺は今ダンジョンの中にいる。

 見た目は特質する点の無い洞窟だ。話しによれば俺が案内されてる場所は一番安全とされているルートのようだ。

 その話に偽りは無く、ダンジョンの中に入ってからと言う物モンスターと出くわしていない。それでもモンスターは目にした。

 今も俺は細いルートを慎重に落ちないように進んでいる。真下を覗くとこれでもかという数のモンスターがうじゃうじゃと居た。


 ダンジョンに入るのは初めてだと伝えたら、今も同行しているあの華奢な奴が喜んで説明してくれた。

 ダンジョンの見た目は大きく変わることは無く特別な事で言えばモンスターが普通より多く配置されていることらしい。

 その言葉通り真下のモンスターは動きはする物のまるでそこが定位置なのかと思わせるほどに大きな動きを見せていない。


「いやぁ~それにしても、あれからやっぱり不気味になったでやんすよ~」


 ボスの側近である出っ歯も同行している。

 出っ歯の不気味とは、神災後の話のようだ。どうやら神災が起きた後にダンジョンも大きく変化を遂げたとの話だ。

 一番わかりやすいのがモンスター。元々居たモンスターは凶暴化し見たことのないモンスターも出没し始めたという。


 神災後にそんな事があるなんて聞いたこと無いと溢していたが、神災の力では無いらしい。

 その見たことのないモンスターという物の代表的なのがあの植物のモンスターのようだ。

 あの森一帯は俺が倒してしまった森の主と呼ばれていたライオン型のモンスターが縄張りとしていたらしい。あまり出くわすことが無く普通は森の奥深くに身を置き脅威では無かったようだが、あの植物モンスターが出現してからアジトやイーガル近くに姿を見せるようになったようだ。


 ちょうどあのライオン型に迷惑していた時に俺があれを倒したから彼等は俺に目を付けたようだ。


「あれ?」

「どうした」


 先行する盗賊が一人足を止めた。それに倣うように後続の俺達も足を止めた。

 体は出さずに慎重に曲がり角から様子を伺っている。


「モンスターが・・・全員死んでます」


 辺りを警戒しながら俺達は足を踏み入れた。予定では、ここで一度戦闘するということだったが・・・。


(誰かが倒した、しかもこれって剣・・・)


 倒れているのはゴブリン型のモンスターやオークばかりだ。

 見渡す限り容赦無く切り刻まれて全て倒されている。

 胴体が半分に切断されていたり、巨体のオークの腹部に風穴が空いていたり・・・。


 それを見て脳裏が過ぎる。


 あのイノシシと隊長さんか?



 盗賊達が回りに敵が居ないことを確認し先へ進むと指示を出す。

 そして目的地である最下層はもう目と鼻の先にまで進んだ。







ガギィィィイィンッ!!!!





 最下層へと続く道の奥から音が山びこのように響いた。

 戦闘音。


 もう、戦いは始まっていた・・・。

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