生存 と 覚醒


 っ!!?


 直感が俺を刺激した。俺は咄嗟にルキーを抱きかかえ隠れていた民家の窓から飛び出した。


 その瞬間俺達が隠れていた民家が爆発した。


「一体・・・何が」


 ルキーが自分達の居た場所が急に爆発した事に唖然としていた。俺も同じだった。


 間違いなく魔法だ。


 それも俺達を狙っての魔法。しかも民家一つを軽々と吹き飛ばすほどの威力を持った・・・。

 ルキーを抱えたまま俺は、その場からまた動けないでいた。突然起きた魔法の攻撃で気付かなかったのか。それとも魔法が放たれ現れたのか。とてつもなく邪悪な気配を感じていた。

 

 それを感じ取ったのは俺だけでは無かった。

 俺とルキーは恐る恐ると、上を・・・赤く染まる空を見上げた。



 そこには空からゆっくりと降りてくるモンスター・・・いやもはやモンスターなのかすら怪しい者が俺達の目に映った。


「か・・・神・・・様」


 ルキーの目にはそう映ったのか。

 確かにゆっくりと下界へと降り立つ神のようにも思える。

 足まで覆うほどのドレス。両手には歪な形をした杖。


 そして人と似た顔を立ち、目、鼻、口、と人間に酷似した巨大な何かが俺達の頭上から、空から舞い降りてきた。



「あれは・・・ダメ・・逃げ・・ないと」



 俺達は簡単に一変した。

 きっと近くで同じようにあれを見ていたら誰しもが思うだろう。


 あれは・・・神災、その物だと。


 モンスターが大量に出現するのはもはや前座だと。

 神災の最大の問題は、この、化け物なのだと。



ファァアー・・・!!!



 化け物が動き出した。

 両手を広げ不気味な声を上げだした。


 その瞬間に到る所が爆発している音が耳に入る。


「・・・っ!!」


 爆発は俺達の目の前にある建物にも及んだ。一撃で木端微塵になった。

 咄嗟にルキーを庇うように動く。爆発した建物に目をやる。


 そこには俺達と同じように隠れ忍んでいた人間が居た。

 正確に言うなれば俺の目の前にボトリと人間だった半身が降ってきた。


 間違いない。あの爆発は・・・あの化け物の仕業・・・。



 








 俺は再び空見上げた。そして背筋が凍った。


  

 目が・・・合った。



 巨大な化け物と・・・。











ファァアァァアァァァアアアァァァァアア!!!!!!




 



 化け物の声が響く中俺はすぐに逃げた。

 もう何処に逃げればいいのかなんかわからない程にとにかく我武者羅に逃げた。足をとにかく動かした。

 ルキーを抱え、早く早く。

 もうそれしか出来ない。足が壊れてもいい、逃げれるなら何でもいい。


 力を振り絞り、足を動かし走った。



 背後から次々と爆発音が響くのがわかる。

 まるで楽しんでいるかのようだった。もっと早く逃げろ、そうしないと巻き込まれるぞ。

 そう言っているかのように化け物は・・・。



アハハッハハハハハハハハハ!!!!



 笑っていた。

 人間の高笑いのように声を大きくして笑っていた。


 抱いたことのない気持ちが不思議と込み上げる。

 人間に抱いたことのない物。

 あの化け物に優ることなんて皆無なのに俺は抱いていた。


 怒りを。


 


 爆発はもうそこまで来ていた。見なくてもどれくらいの距離かわかる程に。

 だからこそ今ここで減速、ましてや止まることは許されないのがわかってしまっていた。

 とにかく俺が今出来ることは・・・ただ走る事だけ・・・。










ボゴォォオォオオンッ!!!



 遊びは終わり。

 そう告げるかのように俺の目の前が爆発し俺達は吹き飛ばされた。


「うぅっ!!」


 ルキーの苦しんだ声が耳に届いた。

 爆発の衝撃で俺はルキーを手放してしまいお互い地面に叩きつけられた。


 俺に痛みは無い、踏ん張って立ち上がるもすぐにまた地面へと倒れてしまう。足を折ったのか左足に一切力が入らないのがわかった。




 それでも這いつくばりながら俺はルキーの元へと向かおうとする。

 ルキーに視線を送る。


 だが同時にこちらを見ている化け物がこちらを見て嘲笑っているのがわかった。

 


 化け物の笑み。

 口角が上がりきった不気味な笑み。


フフフフッ・・・!!! 


 何かを指に乗せ笑っていた。

 奴が今何を考えているのか。

 考えたくもない事が脳裏を過ぎる。


 腕をとにかく動かす。

 早く、早くルキーの元に行かないと。






「逃げ・・・て、生きて・・・」






 駄目だ、諦めないでくれ頼む。

 すぐに行くから。そんな言葉を口にしないでくれ。

 一緒に・・・生き残りたいから。だから。








 やめろ。








「レーグ・・・」



 

 剣が・・・。


 俺がコウモリを退ける為に使った剣が。


 うつ伏せになっているルキーの背中に、刺さっていた。




 そして・・・トドメをさすかのように、爆発した。

 目の前で、為す術無く。




 ルキーは・・・俺の前から・・・消えた。









「あぁあああああぁああああああああああああああぁぁああ!!!!!」






 久しぶりに口にした声は・・・叫び声だった。













- スキル 『奴隷の逆神』 強制解放 -




- 奴隷の逆神解放に伴い使用不能スキル全解放 -




- 解放スキルに伴いスキル再構築 -




- スキル 『壊れかけの道化師』 会得 -




- 壊れかけの道化師会得に伴い全魔力解放 -















「あぁああああああああああああああああああああああ!!!!!」




アハハハハハッハハッハハハハハハ!!!!!!



 俺と化け物は同時に右手を前に出した。


 その瞬間化け物の右手が爆発し吹き飛ばした。



フアァア!!!????


「あぁああああ!!!!!」



 数年溜め込んだ物を吐き出すかのように叫び続け俺は上空へと飛んだ。

 右手を払う。同時に左頬の奴隷紋が光る。


 魔力で出来た光の刃を化け物目掛けて放った。

 避けること無く化け物は魔法の障壁を展開した。



「あぁあああああああ!!!!」



 左手を開き前へ突き出す。先ほどと同じように奴隷紋を輝かせる。

 そして一気に左手を握り潰す。


 その瞬間展開した魔法障壁が砕け散った。



フアァッ!!!!!?????



 化け物は口を大きく開き声を上げた。

 障壁が壊れた事で俺が放った光りの刃が化け物に襲いかかる。

 避けようとしたのか巨体な体勢を変えようと動く。


ギアァアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!


 悲鳴が響く。

 化け物の残った左手を切断した。直撃なんてさせるわけがない。


 無理に体勢を変えようとしたことと腕を一撃で切断され化け物はその巨体を仰向けに倒した。


アァア!!! アァアアアアア・・・!!


 両腕を失った苦しみ、悲鳴を上げ声を上げることしか出来ないでいる。

 その姿を見て今にも感情が爆発しそうだった。




 俺は今、激しい高揚感で満たされていた。

 目の前で大切だと思える人を弄ばれ、吹き飛ばし、殺された。


 

 それでようやく・・・わかった。


 これが・・・"本当の終わり"なんだ。


 絶望も捨て、希望すら無かった俺の終着点だと確信した。

 やはり何もかもが良く出来ているということなんだ。


 奴隷である俺が何かを得ようと希望を抱いた瞬間にそれを払拭、バランスを取るかのように奪い取られる。


 そうだ、だったら最初から何も持っていない方がいい、そう考えたんだった。

 何も無い方が失った時に辛い思いをしなくて済むとかではない。

 辛いすら思う必要すらない事を覚えればいい。良いと思うことすら放棄すればいい。


 ただ捨てるさる事が全てだったはずなんだ。

 死という概念すらも。 

  

 今もそう・・・変わらない、変わらなかったんだ。


 簡単な事だ。

 自分を殺す必要すらなかった。

 

 俺は不気味に笑みを浮かべるだけでいいんだ。

 それで・・・何年も、何年もやってきた。



 そうだ・・・もう終わっていたんだ、俺という存在は。

 奴隷として売られた瞬間から。



 ならば目的は、達せられたじゃないか。




アァ!!・・・ゥウ!!



 

 裸足で歩く。俺はゆっくりと歩く。

 苦しみ悶えるただ図体がデカイだけの倒れた化け物の上を。

 下からゆっくりと上に、顔の方角へとゆっくりと噛み締めながら。


「へへ・・・へへへへ・・・」


 叫びの次に口に出したのは笑い声だった。

 首の壊れた人形のように傾げ笑い続けた。

 

 これが本当に不気味だと思われる笑みなのではないか。

 やはり俺は中途半端だった、捨てきれていなかった証拠だ。


 これでようやく完成したのかもしれないと思うと余計に可笑しく笑いが止まらない。


ィ・・・!!!??


 ついに化け物の顔が良く見えるところに到着した。

 よかった、俺の顔を見て怯えてくれた。


 こんなにも大きな体を持ったコイツ。

 きっと誰しも恐れ慄く姿と力を持ったコイツ。


 それが・・・怯えてくれたんだ。


「あはは・・・!」


 こんなに喜ばしい事はないじゃないか。

 


 右手を高く上げ奴隷紋を光らせる。

 巨大な光輝く剣右手に生成する。天高く、意味も無く大きく、伸ばし続ける。


 デカくなればなるほどに目の前で怯えるこいつの顔がぐちゃぐちゃになっていく様が酷く高揚する俺の感情に刺激を与え続ける。




 あぁ・・・これが・・・これが今の俺の全てなんだな。





ギャァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!





 俺はストンと力を抜いたように右手を降ろした。

 魔力で膨れ上がった巨大な剣はそのまま顔面を消し炭にし前方の全ての地形を

木端微塵に破壊したのだった。

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