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そんなわけで、芳恵達を許すことにしたわたしは、現世に未練もなくなり成仏しにいこうとしているってわけさ。
え? 全部話を聞いたけど結局どうしてきみに話しかけたのか理由がわからないって?
んー、やっぱりきみは勘が鈍いね。
まあ、そりゃね。きみとわたしは赤の他人だし、わたしも成仏する途中できみを見つけただけだから、きみのことなんてなにひとつ知らない。そんな薄い間柄でしかないのにこんな話をするのは変だよね。
でもさ、わたしは死んでからずっと誰とも話せなかったんだ。生きている人間はもちろん、ほかの幽霊に至ってはいままで見つけることもできなかった。きっとフィーリングが合わなかったからだろうね。
きっと芳恵もこんな気分だったんだろうなって思ったよ。一日中話す相手がいなくて、帰ってきた夫からも素っ気なくされて、おそらくものすごい孤独だったと思う。
わたしはそんな孤独のまま成仏しようとした。
で、そのときにきみを見つけたんだ。
あはは、その通り。自分の孤独を紛らわせるため、最後に誰かと話したいっていうのが理由のひとつ。
でも、もうひとつ理由があるんだ。
……わたしさ、幽霊に詳しくはないけど、幽霊にもいろんな種類の幽霊がいると思うんだ。
足がない幽霊とか。血みどろの幽霊とか。それから、自分が死んだということを認識していない幽霊とか、さ。
さすがに勘の鈍いきみでも気づいたかな?
わたしは死んでから、いままでほかの幽霊は見えなかった。そう、きみ以外はね。
べつに放っておいてもよかった。でも、きみを認識できるってことは、わたし達はフィーリングが合う。つまり似たもの同士だということ。
だから、わたしはきみの成仏を手伝えるんじゃないかって思ったんだ。きみの話を聞くことによってね。
でも、きみはなんだか自分が死んだことをわかっていないようだった。そんな人にずばり「きみは死んでいる」っていうのもかわいそうだったからさ、手始めにわたしが死んだときのことを語り、それとなく悟らせようと思ったんだけど遠回しすぎたかな。
いやいやいや、嘘じゃないって。まあ、自分がすでに死んでいるなんていわれて信じられないっていうのもわかるけどね。そうだなぁ、どうやったら納得してもらえるか……。
ああ、そっか! きみも壁すり抜けをしてごらんよ。大丈夫だってバンジージャンプみたいなもんだっていったろ。え? バンジージャンプしたことないって? いや、関係ないから。とりあえずやってみなって。
――ね? すり抜けたろ?
ほら、こうして自分が幽霊であるって認識することで、きみも思い出してきたんじゃないかい?
それじゃあ聞かせてもらおうじゃないか。
きみが死んだときの話を、さ。
わたしが死んだときの話をしよう 笛希 真 @takesou
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