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 死んだときの話とかいっちゃったけど、その前に大前提を話しておかなきゃね。

 わたしは妻と二人暮らしをしていた。妻の芳恵よしえはおとなしいけど夫を立てるいい妻だった。……本当にね。


 妻との出会いは高校時代。芳恵は一学年下の後輩だった。同じ吹奏楽部でね、同じトランペット奏者だった。だから自然と仲良くなったんだ。

 それで、出会って半年くらい――だからわたしが高2の秋だったかな。わたしのほうから告白したんだ。なんていったんだっけかな。……さすがに覚えてはいないけど、芳恵が恥ずかしそうに、でも本当に嬉しそうにうなずいてくれたのはいまでも鮮明に覚えているよ。


 人生初の彼女だった。その彼女と結婚することになるんだよ。これって結構すごくない? 初めての彼女と添い遂げた人ってどのくらいの確率なんだろうね。まあ、そのことはいいとしても、彼女が初めてできたとき男って浮かれるものだってのはきみもわかるだろ?

 わたしもそうだった。寝ても覚めても芳恵のことを考えていた。そして、芳恵がほかの男と話しているのを見ることが耐えられないほどの苦痛となっていたんだ。


 うちの吹奏楽部は意外と男子も多くてね、だいたい3割くらいが男子だったかな。うん、吹奏楽部にしては多いと思うよ。当たり前だけど、チームでやっているわけだから、部活のとき芳恵はその男子部員達と話をするわけなんだけど、わたしはそれすらも許せなくなっていた。

 だから、わたしは芳恵に吹奏楽部を辞めてもらうように頼み込んだんだ。そして芳恵もそれをすんなりと了承してくれた。


 ははっ。いかれてるだろ。でもさ、恋は盲目っていうのかな。その当時はそうすることが当たり前だと思ってたんだ。


 そんなんだったから一番大変だったのはわたしが大学1年生のときだ。地元を離れ東京の大学に入ってしまったばかりに芳恵と離ればなれになってしまった。

 苦しかったよ。だから昼夜を問わず芳恵の携帯に電話をかけた。さすがに授業中にはかけないでくれと懇願されてしまったけどね。でも、芳恵があそこまでわたしにお願いしたのなんてあのときくらいだったかな。


 そして、その一年を乗り越えて芳恵もわたしと同じ大学に入学が決まり晴れて同棲することとなったんだ。本当はそのとき籍を入れちゃってもよかったんだけど、やはり学生結婚ていうのは世間の目もあるし、踏みとどまることにした。

 学部は違ったんだけど、同じキャンパスだからさ、授業以外はいつも一緒にいたなぁ。


 でもさ、やっぱり不安だったんだよ。ほら、大学ってチャラい奴も多いじゃん? それに加えて芳恵も東京に来てからずいぶんあか抜けた。

 だから、わたしは芳恵に化粧やおしゃれすることを禁止したんだ。野暮ったい格好をしていれば好んで近づいてくる男もいないだろうからね。


 そうだね。若い女性に化粧やおしゃれを制限するなんてひどい話だよね。でも、芳恵はそれを受け入れてくれた。「あなたさえ側にいてくれるのならわたしは構わない」といってね。


 それが功をそうしたのかはわからないけど、その後卒業するまでわたし達の関係は何事もなくうまくいっていた。そして、わたしは就職し、芳恵も卒業をしてようやく結婚に至ったというわけさ。

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