わたしが死んだときの話をしよう

笛希 真

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 やあ、はじめまして。今日はきみとお話をしようと思ってこうしてやってきたんだ。

 なんの話かっていうとね、わたしが死んだときの話なんだ。


 え? 急に現れてお前は何者かって?


 ……きみは勘の鈍い奴なんだな。死んだときの経験談を語ることができる人間がどんな人間かなんていわなくてもわかるだろう。そう、わたしは幽霊なんだよ。

 まあ、足もあるし、ぱっと見ではそうは見えないのかもしれないけどね。それでもわたしは幽霊。自分でいうんだから間違いなんてないさ。


 なに? 信じられない?


 確かに、いきなり現れた男が「自分は幽霊です」っていってそんな簡単に信じられるわけがないのはわかる。うーん、どうやったら証明できるかな……。

 おお、そうだ! 簡単に証明できる方法があったな。ほら、わたしのことをよく見ててくれよ。


 ――どうだ? 驚いたろ? わたしは壁をすり抜けることができるんだ。こんな芸当ができるのは幽霊くらいだろう。

 しかし、この壁のすり抜けもいまでは当たり前にできるようになったけど、最初はおっかなびっくりだったよ。幽霊になったからにはそういうこともできるようになっただろうとは思っていたけど、いざ壁に頭を突っ込んでみようって思うと、やっぱ生前の記憶が邪魔をするんだよね。壁は通り抜けれるものではないっていう常識がね。

 でも、一回経験すれば後は楽しいもんだよ。そういうところはバンジージャンプなんかに似ているかもね。


 それに、この能力はじつにいい。ほら、わかるだろ。同じ男ならさ。そう、女風呂をさ……ああ、そう。きみって見かけによらず結構堅物なんだね。

 ま、でも、これでわたしが幽霊であることは信じてもらえたってわけだ。


 しっかしさ、幽霊になってから誰とも話せなかったから、きみとこうやって話ができて嬉しいよ。きっときみとはフィーリングが合うんだろうな。


 ……わたしはさ、死ぬ前も幽霊になったいまもべつにオカルトとかに詳しいわけじゃないよ。でもさ、思うんだ。生きている人間が千差万別いろんな奴がいるように、死んで成仏できなかった幽霊にだっていろんな種類がいるんじゃないかって。

 足がない幽霊。血みどろな幽霊。そして、わたしみたいに見た目は生きている人間と大差ない幽霊といった感じでね。だからきみも固定概念にとらわれてはいけない。いいね?


 そんなことはいいからどうして自分に話しかけたのかを教えろって? なんかきみってせっかちなんだね。もうちょっとトークを楽しもうよ。さっきもいったけどさ、こうやってお互いを認識できるってことは、わたし達フィーリングが合っているってことだと思うんだ。つまり、似たもの同士ってこと。

 まあそりゃあね、幽霊の話なんて聞いてて楽しいもんじゃないかもしれないけどさ、こうして会えたのもなにかの縁だしさ――


 わかった、わかった。本題に入るからそんなに怒らないでくれよ。


 とりあえず、さっきのきみの質問『どうしてきみに話しかけたのか』だけど、これは後回しにさせてもらうよ。というのも、それはわたしの話を最後まで聞けばきっとその理由がわかってもらえると思うから。

 ということで、前置きはここまで。それでは――


 ――わたしが死んだときの話をしよう。

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