【DIE】人生RTA Part4【終】

「アイツめ、最後まで務め上げる前に死におったか。それにしても、女に心を奪われるがあまり周囲の確認を怠って事故死……。これではとんだ恥晒しだな。、の話だが」


 あの世――死後の世界の『役人』と呼ばれる存在はそう呟く。

 役人は釣り竿のようなものを取り出し、死人――名和田和樹なわたかずきに宿る魂を回収する。


「おぉっと! 役人さん……ってことは、俺は死んだんですね……」


「そうだ。11893756839番、貴様は自らの責務を全うできずに死に絶えたのだ」


 責務を全うできずに、か……。もともと卒業式の後に人知れず死ぬつもりではいたけど、『案件』でやらかしたってのが本当にデカい。少なくとも幽宙浮遊ゆうちゅうふゆうでは配信できないだろうなぁ――ダメ元で確認してみるか。


「あの! 幽宙浮遊の運営さんに顔利かせて、俺が案件を失敗したことチャラにできたりしません? 十年で完璧な状態にして、必ず納得のいく再走をしてみせますから! いや、マジで!」


 俺は必死に頭をこすりつけて土下座……をするが如く役人さんに向けて懇願した。魂には身体の概念がないので、お気持ちを前面に出しまくるしかない。文字通り魂を込めた行動である。


「そんなこと言ったって、あの配信は始まって十秒足らずで、ばん? とやらをされたようだからな……というか、我らにそんな権力はない――」


「ちょちょちょ、ちょっと待ってください! やらかしたのは俺が悪いってことで責任とりますけど、十秒足らずでBANってどういうことですか! それはちゃんと説明してください!」


 確かに倫理的にまずい配信内容ではあったよ? でも運営さんもそれを承知で『案件』として配信するのを認めてくれたよね? 配信始めた後に秒で経営方針が変わったとか?


「その……せんしてぃぶ? というあまり褒められたものではない内容が、貴様の配信に含まれていたらしいのだ。我も配信を観ていたが、何も邪悪な要素は感じなかった……。配信主である貴様は、何か心当たりはあるか?」


 BAN……開始十秒足らず……センシティブ……あっ……。

 配信始めるタイミング、完全にミスった! 生まれる瞬間から始めたから、色々とモロ出しじゃねーか! 母子ともに健康ですってか!

 案件の失敗とか以前に、赤ちゃんの状態とはいえ、人間としてダメな奴だ……。


「ということは、さっきの事故までの全部パー? 奈々ななへの私欲九割だけど、人間のプロモーションにもなるし、そういう意味ではまあまあ頑張ってたよね? BAN食らったから再走もさせてくれないだろうし……。うわぁ詰んだ……」


「いや、その後配信は再開されたぞ。せんしてぃぶな箇所は運営が上手く加工を施して、最後に貴様がトラックに勝負を挑んだ所まで、な。ちなみに貴様の最後の姿はぼやけてほぼ何も見えなかったがな!」


 役人は嫌味たっぷりに言う。確かにアレを映像だけで観れば、俺がタイムを短縮しようとして、わざと致命傷を食らいに行ったように映るのか。まあ実際はただの前方不注意なんだけどね。それで全モザイクか、はっずかし。


「でも、良かった……運営さんありがとう! って役人さん、なんですかその言い方は! なら今度自分がやってくださいよ! アレ結構辛いんですからね!」

 

「嫌だわ! そもそも我死なないから! 輪廻から外れとるから!」


 あ、そういやそうだったっけ。こんなのに八つ当たりしても何にもならない。この先十年、果たして何で暇つぶしをすればよいものか……。


「そうそう、何も悪い話だけではないぞ。まあ良いか悪いかは貴様次第だがな」


「――一体、何ですか?」少々の期待からか、無意識に表情が強張ってしまう。


「幽宙浮遊のトップの者が、貴様の『人生』を気に入ったようでな。是非とも生き返らせて、さらなる展開を見せてほしい、と我ら役人に直談判してきてな。我らとしては、『個の命は個の物であるから、判断は当人に任せる』と応答した次第であるが、どうだ?」


「え? 一度死んだら十年経たないと生き返れないんじゃないんですか?」


 死後の世界では十年ペースで転生をさせることで、地球の生命の数を保つというルールのもと成り立っている。それは不変のものではないのか?


「それは地球の生命を均等にするためであって、人一人生き返らせるなど造作もない。別に生命数が一つ増えるくらい何ともないしな。まあ今回は特例中の特例だ」


「改めて、11893756839番。いや、ここは名和田和樹が正しいか。生き返るにしても、貴様の身体はかなりの傷を負っている。せいぜい五十でこちらに戻ることとなるだろう。まともに動けずに死を迎えることもありえる――どうだ、生き返るか?」


「当たり前ですよ。奈々に俺の思い、全部伝えに行きます」


 彼は予想通りの返答を寄こしてくれた。ならば我もそれに応えるのみ。

 我は現界へと繋がる扉を想像し、創造する。


「やはりな。これを開き、歩を進めれば現界へと至る。さあNA2なつよ、貴様の人生を取り返しに行ってこい!」


 彼の影は次第に小さくなっていく。呼応するかのように、彼の存在は大きくなっていく。

 『人間五十年』とは良く言ったものだな……。短い間かもしれぬが、我にもその道楽、見届けさせてくれ……!

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