【LIVE】人生RTA Part3【別れ】

 三月一日、決行の日はやってきた。


 『人生』というゲームは、何度も予想の斜め上を行く状況を『仕様だ』と叩きつけてくる。良くも悪くも、だが。そして今回は良い方に転がってくれている。

 どうせあの世の奴らは俺の死に様にしか興味がないので、高校生活の模様はざっくりと発信した。言ってみればDIEダイジェストである。

 

 前世で履修済みだからテストで赤点をとることもないし、根が陰キャのそれなので体育祭や文化祭で目立つことも叶わなかった。

 『家から近いから』というテキトーな理由で公立の大学に受験し無事合格した。残るイベントといえば、今日の卒業式くらいである。取り立てて発信するようなことが本当にないのだ。常に一人の幼馴染が隣にいることを除いて。

 クラスのみんなには、『あの二人は不可侵』という暗黙の了解があるらしい。別に奈々とは関係ではなく、ただの友達止まりなのだが。


 俺はそんなバグを抱えた『ごく普通の男子高校生』をプレイしている。そんな幸せな日常が、あと少しで終了する。せめて思いを伝えてから死にたいが、残された奈々ななのことを考えると、この微妙な関係を完全に断ち切ってから死ぬのが正解だろう。

 俺が傷つくのは構わない。役人にちょちょっと記憶を消してもらえればなんの問題もないからな。


 いつもより早い時間に目が覚めた。どうやら緊張で気が立っているようだ。

 十年経てばイケメンにも美少女にも転生できることが分かっているのに。

 やはり『死ぬ』のは怖い、か。自己顕示欲でこんな配信やってる奴が今さら何を言ってるんだって話だよな。余命数時間、最後の思い出でも作るか。


 俺は寮を後にし、学校ではなく別の場所へと駆けた。そしてある家のインターホンを右の人差し指で押し込む。


「奈々、早く学校行くぞ!」名和田和樹なわたかずきにとって、最後の思い出である。


 二階の窓から驚愕の様相でこちらを見下ろすのは、紛れもなく霧次むつぎ奈々その人である。幾分かの後、扉から息を切らしたツインテールが現れる。


「はいはい、わかったわかった――で、いいのかな?」


「いいんじゃね? ――んじゃ行くか」そっけないフリをする。


「は~、今日で卒業だね。私がいなくなって寂しくなるんじゃな~い?」


「いや小、中と別の所にいたろ。それくらい慣れてるよ」


「ふ~ん、寂しくないわけじゃないんだ」「うっせ」


 はやる思いを抑え、なんとか会話を紡いでいく。もう何のために転生したかなんて、そんな小さいことはどうでもよくなっていた。

 月並みだけど、この瞬間が永遠に続いてくれと思った。一歩、また一歩と、終わりが近づいていく。あの時みたいに心臓が跳ね上がる。

 三月のくせに、体全体が熱を帯びる。顔の赤さを、霜焼けのせいにする。


 脳は全く働かない。ましてや横で歩いてい少女の声など、聴こえるわけもなかった。


「和樹くん! 前、前っ!!」


 えっ? どうした、奈々――


「――っ!!」

 

 衝撃。全身に痛みが走る。視界はぼんやりとしていき、爆音のクラクションは耳をつんざく。立ち上がれない。動けない。奈々に、腕を伸ばせない――


「じ……こ……」これが最後の言葉だった。


 名和田和樹、享年十八である。

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