【LIVE】人生RTA Part2【再会】

佑叔ゆうしゅく市に住む名和田和樹なわたかずきには一人の『幼馴染』といえる存在がいた。


「かずきくん、はやくようちえんいくよ!」


「はいはい、わかったわかった」


 黒の髪を二つのゴムで縛り、ぶんぶん揺らしながらこちらへと駆ける。

 彼女の名は霧次奈々むつぎなな。本人曰く『むっつのつぎはなな!』らしい。

 家が隣同士で、幼稚園に通って――もしNA2前世がこの話を聞いたらどんな反応をするだろう? 彼、というか俺には幼馴染という概念は刺激が強すぎる。

 人生n+1週目だけあって奈々との距離感にこそ対応できているが、中身は何も変わっていないので心臓は明後日の方向に跳ねそうだ。ドキドキがバレないように、俺は彼女の二歩後ろのポジションを保つ。


「って、お~い! なんかげんきなくない? まあいつものことだけど」


 嫌味そうに彼女は言う。『女の子』に耐性がないから縮こまっているだけで、本当は奈々と仲良くしたいんだけどね。あと十年ちょっと、時間がないわけではない。徐々に距離を詰める作戦でも遅くはないはず――

 

 しかし『人生』というのはそう上手くいかないもので。小学生ななになろうというタイミングで、名和田家は仕事の都合で引っ越すこととなった。サイドミラー越しに映る、揺れる黒。ぐしゃぐしゃに泣き崩れる少女の姿が、今も頭にこびりついている。

 奈々に別れの言葉はかけなかった。きっと、もらい泣きしてしまうから。弱い姿を見せてしまうから。

 

 算段はあった。佑叔には寮のある進高校があり、そこに通えば奈々と再会できる、というものだ。学業は任せろ、こちとら何年も前に履修済みだ。

 引っ越した後も霧次家とは親交は切れておらず、連絡も取り合っていた。クリスマス前に奈々から『男子が貰うと喜ぶものってなに?』と訊かれた時は生きた心地がしなかったが、送り先はいとこだと念押しされたので大丈夫のはずだ、たぶん。もちろん、佑叔に帰ってくることもきちんと伝えた――

 

 回想終わり。俺はこれまた何年も前に学んだことを再確認しに向かう。

 靴から上履きに装備を変えると、決まって一人の少女が、ツインテールをぶんぶんさせながらエンカウントする。廊下は走っちゃいけません。


「和樹くん、早く教室行くよ!」「はいはい、わかったわかった」

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