それは幸福

チアキリョウ

第1話

 秋晴れというには暑すぎる。この駅に来たのは中学生のとき以来だった。ロータリーから続く真っ直ぐで太い道路にはずらっと街路樹が植えられている。記憶にあるよりも枝が広がり、それなりに日陰を作っているが歩道を全て覆うほどではない。

 駅前のコンビニでなにか買ってくるべきだった。行き先がカフェだからと我慢したのが裏目に出た。幸先が悪い。このところなんとなくついてない。「新作で栗のメニューが出たから」「LINEでクーポン貰ったから」「前から気になっていたから」と理由を重ねて自分を労りに来たのに、どうしてくれよう。

 この道は子供の頃に何度も歩いた。近隣の小中学生が遠足やら行事やらの度に行くことになる大きな公園へとつながっているからだ。しかし最後まで歩いたのは小学生の頃が最後かもしれない。

 公園の入口は子供の頃の私にとって怖い場所だった。よくわからないオブジェがあって、ただただ広い。そして子供が死んだらしい。「戦争体験を聞く」という授業でそういう話を聞いて以来なんとなく避けていた。併設されたホールや運動場は途中で道をそれた先にあるので、中学生になると公園自体に用があることはほとんど無くなった。

 目的の店は公園の正面入口の目と鼻の先にある。爽やかでおしゃれな外観をしていて見たらすぐに分かった。暑さにうんざりしていた私は歩みを早める。近づいている最中に予感はしていたのだが、きちんと確認しないでは済まなかった。店の中が暗い。目がきつい日差しに慣れているせいかと思ったがそうではなかった。やっていない。閉まっている。休みの日を増やしたと書いてあるがどうでもいい。

 とにかく暑さから逃れたかった。広場に背を向けて木影の多い脇道を目指す。しばらく歩くとアスファルトで舗装された道は無くなり、雑木林へと変わっていた。公園の中にしてはあまりに鬱蒼とした場所だった。もしやと思い奥へ奥へと進んで行くと、古い建物がある。私の記憶ではそこは公民館だったはずだが、入り口のプレートには市の資料館と書いてあった。

 休ませてもらおうと中に入ると奥の方に自動販売機がある。一目散に向かい大容量の麦茶を買う。近くにあったベンチに腰掛け一息つく。受付らしきカウンターはあるが、人は見当たらない。薄暗い室内に目がなれてきたところで正面のガラスケースの上に立て掛けてある丸い何かに気がついた。あれは面白いもののような気がする。近づいて見ようとペットボトルを煽ったが飲みきらなかった。

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それは幸福 チアキリョウ @ryo_chiaki

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