初期仏教と部派仏教の思想的相違点について

一.初期仏教の特徴


 初期仏教とは、ゴータマ・シッダッダが「さとり」を得て、ゴータマが仏陀となって説法をしていた時代の仏教のことである。

 その特徴としてはまず、「諸行無常」というのが挙げられる。これは、世のものはすべて移ろいゆくものであり、常に変わらないものは無い、という意味である。この思想は初期仏教において発生し、その後の仏教思想全体のベースとして受け継がれていく。

 なぜ「諸行無常」なのかというと、それはその理由に「諸法無我」があるからである。この場合の「法」は、法律という意味ではなく、「事象そのもの」を意味」を意味する仏教用語である。パーリ語でダンマ(dhamma)、サンスクリット語でダルマ(dharma)という。

 現象としてあるもの(諸法)は、実体ではない(無我)という意味である。

 ここからまた、「縁起説」の思想が生まれることになる。移ろいゆく全ての現象は、「縁りて起こること」であるため、原因があって生じ、やがてまた消滅していくのである。

 そのような縁起の真理をさとった仏陀は、説法による伝道を始めた。その中で説かれたのが、鹿野苑ろくやおんにおける最初の説法でもある「四諦」であり、人生における具体的な苦しみの説明でもある「四苦八苦」であり、それらの苦しみに対応して生きるための「八正道」である。



二.部派仏教の特徴


 これに対して、部派仏教はどうであろうか。

 部派仏教は、ゴータマ入滅後に仏典結集などの問題で派閥が生じ、保守派の上座部と進歩派の上座部が生まれたうちで校舎の上座部がベースの合わせて二十の部派の仏教のことをいう。

 部派仏教は、初期仏教をベースとしつつも、その解釈やありようが大きく異なっているところがある。

 一例としてまず挙げることができるのは、「諸法」についての解釈である。初期仏教においては、縁起説にも見られるように、「諸法無我」といって諸法自体に実体があるわけではなかった。だが、上座部の一派である説一切有部は、諸法にある形での実体を認める。現象そのものに実体がなくとも、その根本にはある種の実体がある、とするのだ。この大元の実体は三世(過去・現在・未来)にわたって存在する、としたので、「三世実有さんせじつう法体恒有ほったいごうう」という名前でその思想は呼ばれる。確かに我々の身体は細胞単位で日々入れ替わっているが、我々の心には連続性があり、自我というものが存在する。それゆえ、そこにはそういった形での実体が存在する、とする。三世(過去・現在・未来)における連続性のなかに、説一切有部は実体を認める。この説一切有部の主張は、のちの大乗仏教から空思想において徹底的に批判されることになる。

 また、部派仏教における思想のもうひとつの特徴として挙げられるのが、「行為」についての考察である。サンスクリット語でカルマン(Karman)といい、これは日本語で「業」と訳された。「業つくばり」や「業がにえる」といったときのその「業」である。この「業」という仏教でも割に一般的に知られた思想は、ゴータマの時代ではなく、この部派仏教時代に誕生して体系化された思想であると言える。

 行為(豪)は、三つに分けることができる。身体的行為(身業)と言語行為(口業)と心的行為(意業)である。これらはそれぞれ独立して別個の行為でありながら、関連性のあるものである。行為が結果へ、そしてその結果がまた行為へ、とじゅずのようにしてつながっていくのである。

 行為(業)のうち、目に見える行為を「表業」といい、眼には見えない行為を「無表業」という。意業以外の身業と口業は、表業か無表業のどちらかに分けることができる。

 部派仏教における「三世実有・法体恒有」と「業」の思想という特徴からわかるのは、どちらも現象において何らかの実体を認めている、ということである。「三世実有・法体恒有」においては現象の連続性にある種の実体の存在を見出し、「業」は自傷の連続性という前提があった上で、その連続性の実体がどのように連続していっているのか、ということを示している。

 その点が初期仏教と部派仏教の相違点である。初期仏教は、「諸行無常」として、一歳の実体を認めないとはすでにふれたとおりである。部派仏教は、それに対して、一見実体のないように見える現象というものの連続性に実体を見出し、そこを出発点にその仏教思想が成り立っているのである。

 以上が初期仏教と部派仏教の思想的相違点である。

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