アウトドア、出家、漂流
お坊さんが子供達に向かって昔話をしている。出家する前の話のようだ。
「私も出家する前は貧乏でもお金持ちでもなく普通の家庭に産まれました。」
そうお坊さんが優しい口調で話している。
「なんでお坊さんになったの?」
子供達から質問が飛ぶ。ハゲは嫌だなー、そんな失礼な声もきこえる。
「はい、今日は私が出家した理由について話していこうと思います。」
お坊さんはゆっくり話を続ける。
「大学生の時に友人と海へ遊びに行った時の話です。私は泳ぐことができなかったのでビニールのボートに乗り海の上で波に揺られていました。」
「ええー泳げないの!」「僕は泳げるよ!」
そんな子供達の声が飛び交うがお坊さんは気にせず話を続ける。
「ちょっとした油断でした。海の上が心地よくつい居眠りをしてしまったのです。気がついた時には随分と沖に流されてしまっていました。しかし、まだ友人たちが見えたので必死に助けてくれと叫びました。」
「海で寝るとかバカだなー」「それでどうなったの?」
子供達は様々なリアクションを見せる。
「はい、結局声は届かず私は海の上で漂流することになったのです。何よりキツかったのは日差しの強さでした。海水をかけてもすぐ蒸発する状況でした。」
「大丈夫だったの?!」
子供達はテンポよくリアクションしており、お坊さんも気持ちよく話を続けていく。
「はい、なんとか助かりました。途方にくれていると救出用の船が来てくれました。友人たちが呼んでくれたのです。実際は数時間の話だったと思いますがとても長い間漂流しているように感じました。まあなにわともあれ助かったわけですが大変だったのはその後でした。」
「まだ何かあったの?」
そう一番前に座っている子供が質問し、お坊さんは話を続ける。
「元々坊主だったのが悪かったのでしょう。頭皮が日差しやられて火傷のようになりました。その結果髪が生えなくなったのです。ショックでした。元々柔道部だった私は小さい頃からずっと坊主でしたが、やはりハゲと坊主は全くの別物でした。」
「ハゲー笑」「そんなことあるんだ笑」
子供達の大半はハゲと言う言葉に反応して笑っている。
「元々アウトドア派だった私ですが、この件をきっかけに部屋にこもるようになりました。それを見かねた両親が私に出家を進めたのです。不思議とお坊さんになってからはハゲは気にならなくなり外を出歩けるようになりました。それが私が出家した理由です。」
話し終わったお坊さんは楽しそうに笑っている子供達を見渡している。そして一通り皆の顔を見ると突然立ち上がりこれまでとは違ったとても強い口調で怒鳴るようにまた話しだした。
「私をハゲとバカにした人たちは立ちなさい!」
これまで笑っていた子供達はその声に驚き静かになる。
「早く立ちなさい!ハゲをバカにした子達にはハゲになる呪いをかけます!ハゲをバカにするような子達には当たり前の仕打ちです!」
子供達は誰も立ち上がることができず、恐怖のあまり泣き出す子もいた。
「さあ早く立て!お前か、それともお前か!」
お坊さんの声は部屋の外にまで響き渡った。
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