4話「必然の再会」
時は流れ、新入生説明会当日
継斗は母親の
「継斗、あんたそんなに高校生活が不安なの? 顔に出てるわよ。」
「いや、まあ...うん。そんなところだよ。」
高校に合格して一安心とは言ったものの、心配事はまだある。
友達ができるのか、朝起きれるのかといった問題は正直なところどうでもよい。友達は2人もいれば十分だし、早寝すれば朝は起きれる。
問題は美冬のことだ。これからどのようにかかわっていくのかが分からない。今はまだ友達という間柄だが、向こうも記憶を取り戻せば話は違う。もしかしたら友達のままが良いと言われてしまうかもしれないが、できれば前世のような関係になりたいと思うのは仕方のないことのようにも思える。それほどに愛していたのだから。
「友達くらい作ろうと思えばいくらでもできるわよ。まあ、あんたはそういうの面倒くさいって思ってるんでしょうけど。」
夏子は両肩を少し持ち上げ、少しあきれたように言ったが、息子のことはだれよりも理解している。理解しているからこそ、それ以上口は出さないのだろう。少し見当違いだが。
__________
予定されていた時間になり、説明会が開始された。
説明会は生徒数の関係により、午前と午後に分かれている。継斗は午前で智久は午後のはずなので、智久はここにはいないだろう。
体育館には150人ほどの生徒とその保護者がおり、皆真剣に壇上に視線を向けている。
「まずは生徒の皆さん、合格誠におめでとうございます。 県立逢坂高校の教員を務めております、
壇上に立ち言葉を発したのは女性教員、30代前半くらいだろうか。
スカートからすらっと伸びた足に腰まで伸びたきれいな黒髪、キリッとした力強いつり目で、所謂美女のジャンルに分類される容姿だ。
「それではさっそく、新入生説明会を始めさせていただきます。初めに手元の資料を....
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説明会は順調に進み、教科書販売や今後の日程、簡単な校則の説明など、およそ1時間ほどで終了した。
継斗は合格発表の日に冬美と交わした約束のため、彼女を探す。
もしかしたら午後の方に出席するのではないかとも思ったが、今この場にいることを願い、首を伸ばして周りを見渡す。
しばらく見渡していると、すこし離れた壇上の近くに美冬の背中を見つけた。
隣にいるのは美冬の父親だろうか、手元の資料に目を落としているが、遠目でも分かる程スタイルが良い。美冬の高身長は父親譲りといったところか。
居ても立ってもいられず、母に一声かけ少し速足で彼女の下に向かう。
思考の9割が緊張で満たされ、何を話そうかなどは考えていなかった。ただただ早く美冬に会いたいという想いが、今の継斗の行動原理となっているような気さえする。
「おはよう、秋山さん。元気にしてた?」
とりあえずこれだけはと、挨拶の言葉を喉から引っ張り出す。
「あ、春海くん! 久しぶりだね、おはよう!」
「うん、元気にしてたよ。春海君は?」
「...うん、俺も元気だよ。」
唐突な彼女の笑顔に見惚れてしまい、少し間が開いてしまった。
すると俺の存在に気が付いたのか、隣にいた美冬の父親であろう男性と目が合った。
「っ!」
瞬間、少し驚いたような表情が見えたが、すぐに優しそうに微笑んだ。
「美冬のお友達かい?珍しいね、美冬が男の子と親しいなんて。」
「うん、合格発表の日に知り合ったの。」
「...そうか。よろしく、美冬の父の
丁寧に頭を下げてくる時章さんに、すこし呆気にとられた継斗は慌てて頭を下げて返事をする。
「は、はい! こちらこそ、よろしくお願いします。」
こんなに綺麗な娘がいるのだ。少しは警戒してもよさそうだが、予想に反して時章は柔らかい雰囲気で接してくれた。
すこし不安が取れた継斗は、思い切って今日までずっと考えていた言葉を口に出す。
「秋山さん、突然だけど連絡先...交換しない? これからはあった方が便利だと思うんだ。」
少し詰まってしまったが、我ながら噛まずに言えたことを褒めてあげたい。
意外にも、返事は待つことなく帰ってきた。
「うん、いいよ! これからはあった方がいいもんね。」
メッセージアプリを起動し、スマホとスマホを重ねる。
こうして俺の携帯に新たに「秋山美冬」という連絡先が登録された。
すぐさまお気に入りに追加する。嬉しさが心の容器から溢れ、顔が少しにやけてしまいそうだ。
嬉しさのあまり、継斗は美冬と別れたあとの帰り道、夏子の顔がニヤニヤしていたことに気づかなかった。
僕と君。私と君。 大地の恵み-(氷堂杏)- @Daichi3969
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