3話「悲しみの中の希望」
「すみません、どなた様でしょうか?」
瞬間、眩暈のように視界がグニャッと歪む感覚に陥る。
おそらく今一番聞きたくなかった言葉、しかしなんとなく予想はできていた言葉が底のない胸の中に落ちていく。
淡い期待が濃い絶望に変わったことで何も考えられなくなり、生気のない顔で継斗は答える
「いえ、すみません忘れてください....。あなたも新入生ですか?」
「今来たばかりでまだ結果は確認していないので分かりませんけど、合格はしていると思います。なので新入生ということにします。」
愛想のいい笑顔で少女は言葉を続ける
「あなたの方はどうでした?結果」
「僕は何とか合格してましたよ。なので4月からはここの生徒ですね。」
「じゃあここで出会ったのも何かの縁だと思いますし、よろしければ私とお友達になりませんか?」
俺のことを覚えていないというのはつらい現実だったが、その提案は願ったり叶ったりだ。この子が合格していればの話ではあるが、また学校で会う機会があればより仲を深められるかもしれない。チャンスはまだある
一気に顔色を取り戻し、少し上がったテンションで言葉を返す
「もちろん!こちらこそお願いします。」
「ふふっ。じゃあ、私は
「僕は春海継斗です。季節の春に海山の海、継続の継に北斗七星の斗と書きます。これからよろしくお願いします。」
緊張のせいで自分が何を話しているのかも怪しくなってきた。
すると彼女も何かに気づいたのか、少し上目を使い言葉を発した。
「うーん、同じ年だしもう敬語はやめましょう? なんだか春海君ってそんなキャラじゃなさそうだし。」
少し眉を寄せ、居心地が悪そうに言う。
確かに、一人称が僕になっていたり少し調子がくるっていたようだ。
この世界では初対面というのがあったので敬語は使うべきだとは思っていたが、美冬はそれが居心地悪いと感じたらしい。
「そうだね。じゃあこれからは互いにタメ口でいこうか。」
「うん、よろしくね! というか、気づいたんだけど私たちの苗字って真逆だよね。」
「はは、確かにそうだな。」
言われて気づいた。たしかにそうだ、これは運命か?
智久が聞けば「たまたまだろ」と一言で片づけそうなものだが、継斗にとっては言い表せないほどに親近感と幸福に包まれるほどに奇跡だと思えた。
「じゃあ私は結果を見てくるね。次に会うのは新入生説明会かな?」
「そうだな。それまではお別れだ。」
お別れという言葉はやはり嫌いだと感じたが、今回は仕方がない。俺も智久を待っているのだ。
___________
美冬と別れ、打ち合わせしていたのかと疑うくらいのタイミングで智久がやってきた。合格発表前の死にそうな顔とは打って変わって、安心しきった雰囲気全開の表情で継斗の肩を軽く叩く
「ふ~、すっきりした。お待たせ継斗!」
「おう、体調は大丈夫か?」
「おうよ、出たものはユルユルだったが、これからの俺の未来像はカチカチだぜ!」
言っていることは少し下品だが、意図があってなのかどうなのか、その軽さが継斗の緊張を効果的に解していった。
こんな性格だがそれゆえに助けられることも多い。俺はいい友を持ったものだ。
それからはいつも通りの道を通り帰路に就いた。
美冬は継斗のことを忘れていたが、まだ始まったばかりだ。これからの学校生活を思い浮かべ、顔が緩んだ継斗は軽い足取りで家までの道を歩いてゆく。
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