第一章

1話「僕と君。」

朝目覚めると、俺は泣いていた。


眼裏には今まで自分の中で眠っていた、遠い過去の情景が見える。

そこには1人の女性の姿。


「..イヴェール...」


気づけば彼女の名前を呼んでいた。


遠い昔、一生の愛を誓い合った最愛の人。

来世でも添い遂げようと深く誓い合った人。

必ず会いに行くと約束した人。


記憶は涙とともに溢れてくる。誰にも止められない大滝のように


俺と彼女は夫婦だった。町のはずれの小さな村に生まれ、幼馴染として幼少期を共に過ごし、時が流れ気づけば相思相愛になっていた。

結婚してからはそれはもう、ご近所の中では誰もが赤面し顔を隠したくなるほどに愛し合ったつもりだ。


子どもには恵まれなかったが、年老いてからも時間はゆったりと流れた。


彼女といれる、それだけで十分だった。....だがそれも長くは続かない



先に天国からの迎が来たのは俺の方だった。

無限に続くと思っていた時間は有限で、無慈悲にも俺たちを引き剥がす。

______________


「リュシアン...いや、いやよ....行かないで!」


「離れたくない!まだ私のそばにいて、もっといろんなところに行こうって、約束したじゃない...」


イヴェールは今にも消え入りそうな声で言う。


「イヴ、僕もそうしたかった。でも、これからも僕は君のそばにいる。誓うよ」


保証はない。でも、僕と君は何か強い糸でつながっている気がするんだ。


「若いころに約束しただろう?来世でも、そのまた来世でも、必ず君に会いに行くって。」


声を絞り出す。体はもう限界を迎え、意識は朦朧としてきた。

もうすぐなんだね、神様。


「ええ。約束したわ。」

「必ずよ?絶対に私を見つけ出してね? 私もあなたを探すから。」


「うん。必ず......」


そう言って、僕は暖かい何かに包まれていった。


________________


記憶はそこまで、その後彼女がどのような余生を過ごしたのかは分からない。

俺は彼女を悲しませてしまった。まったく、前世の俺はとんだダメ男だ。


前世での一人称は「僕」だったようだが、性格は似たようなものだった。

少し面倒くさがりなところはあるが、やるときはやる。そんな男だ


記憶が戻ったときは、今世よりも長い時間を過ごした記憶が流れ込んできたため、自分が誰なのか、今までの俺はなんだったのかが少しだけ曖昧になった。


だが俺は、俺だ。今まで通りの俺でいよう。



そんなことより重要なのは彼女のことだ。


この世界に生まれてくることができたのか?

前世の記憶はあるのか?

生まれていたとしても歳はいくつ?

そもそも女性なのか?  

などなど


これから考えることは多そうだが、また彼女に会いたい。

その気持ちは強くなる一方だ。


ただ、自意識過剰かもしくはただの思い込みかもしれないが、彼女とは不思議な力でつながっている気がする。


いつかは、そう信じよう。



そんな気持ちで、数日後、高校入試の合格発表日を迎えた。






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