上の世

 列車に乗る間、彼女に上の世について訊いた。干渉とは何か、と。失せ物ばかりでは無かろう、と。すると驚いた事に、上は、こちらの秩序を保つべく、絶えず、れを行っているのだという。

「程度の大きい小さいはありますが。」

「秩序とは驚いた。てっきり人の手のみで守られているものかと。」

「人に働き掛けますゆえ、間違ってはおりません。」

「こちらからは認識出来ないのだろう。」

「左様です、ただ――」

 人の信仰に、その跡の記録が見られるという。

「成る程、合点が行った。貴女方は、我々の言うところの神様なのだな。すると、上の存在と呼ぶのも、変では無い。我々よりも高い次元に居るのだから。」

「高い低いの話とも思いませんが。」

「我々がそう思っているだけか。――ううむ、分からんな。」

 晩飯には幾分早かったが、珍しかろうと駅弁を振る舞った。しかし、左程さほどの反応は得られなかった。


 駅から屋敷へは、車を拾った。着く頃には、日は既に没していた。空の明りはまだ僅かにあったが、建物は闇に沈んでいた。

「勝江さんは今日は出てないのだったな。」

 震災があってからは、いよいよ、ここの住人は私のみとなっていた。こうして家政婦のいない遅くに帰った時などは、自分で灯りを点けて廻る必要があった。

「客間を使うと良い。足りない物があったら――そうだ、着替える物が要るか。」

 人を招く事も近頃は全然であったせいか、娘ほども歳の離れた女相手だというのに、私はいやに浮き足立った。その相手はといえば、憂いを帯びた様子はちっとも変わらぬままであった。客間に入った後は、只の一つも音を立てなかった。






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