41.アルスを玉座から引きずり下ろす話
※前回のあらすじ※
ディアナ、本来なら清らかなはずの教皇にR-18なスキャンダルがあることをつかんで、教皇を自分の言いなりにする
***
ディアナがけじめ、と発言したことに対し、教皇は真っ青になっていた。
「な、なにを……」
「アルス王の後援をしていた神父たちも、あなたみたいなことをしてるよね?」
「は、はひぃ!」
「じゃあ、全員破門して? 聖書で禁じられている罪を犯した、ってことで」
「は、破門だけでいいのですか?」
「そう。あなたは破門するだけでいい」
「後のことは全て、俺たちに任せればいい」
こんな具合で。
教皇との話し合いという名のほぼ脅しにより。
オーランドのノーデン統治には問題がなく、ディアナの絹作りは異端ではなく、正当なものだ、という文書が教会から発表されたのは、この日の夕方だった。
一週間後。
「なあ、オーランド様がナオミ様の息子ってこと、俺たちから公表しねえか?」
皇太子が異端ではない、というニュースにホッとした皇太子賛成派の手紙をディアナが机で整理していると、レミーがやってきた。
オーランドの母親と自分の母親が同じ、ということを公表する、なんて、レミーから提案されるまで考えたこともなかった。
「え?」
「実際、教皇のサイン付きの異端審問の書状が来てる以上、今回は教会も言い逃れができねえぜ」
「まあ、そうだね……それはそれとして、オーランドさんが斬られたこと、どう発表しようかな……」
「……それについてなんだけど」
レミーが気まずそうに顔を伏せる。
「うん?」
「実は全部、キーツさんにバレてて、キーツさんが特ダネとしてディアナの味方たちにポロポロ言ってるみたいなんだ。あくまでも、ディアナに不利にならないよう、本当か嘘かわからない話として。だから、揉み消しよりも、こっちから公開した方がいいと思う、教会に気を遣って情報伏せてたことにして恩を売りつつ」
「はあ……」
「ディアナ?」
レミーが言っていることは、正しいとディアナは思う。
でも、自分が目指していた【自分らしくあること】よりも、これから自分たちがやろうとしている悪だくみは、自分を男装させたナオミの行動と……よく似ている。
「私たちもさ、気づいたら悪だくみをする側だよね……ママの悪だくみで、髪を切られた時は、力がない自分がただ情けなくて、悪だくみを潰せるだけの力が欲しかったけど、結局、それは悪だくみの上をいく悪だくみでしかなくて、さ……こんなことしたかったわけじゃないのに」
「でも、これ以外に、ディアナがディアナに戻れる道はなかったんだろう?」
レミーはそう言って、顔をそむける。
「ディアナに寄り添い切れなかった俺に、こんなこと言う資格はねえけどさ」
「ありがと、レミー。ちょっと楽になった」
愛想笑いを浮かべて、ディアナは手紙の山をレミーに預け、オーランドのことについて発表するための原稿を書き始めた。
ディアナが、皇太子はオーランドと母親が同じだということと、オーランドが斬られたことを公式に発表すると、教会が王家、つまりは天使の子孫に歯向かったということで王都は上を下への大騒ぎになった。
その上。
教皇が教会の一部で性的虐待が行われていることを発表し、信心深い上級貴族層が教会を批判するものと、教皇が正気か疑う者の二派に分かれ、貴族社会は大混乱に陥った。
ほぼ同時に、ディアナ側からも虐待を受けていた少年が皇太子に告発したという形で教皇が言ったこととほぼ同じ内容を発表。
裏付けが取れたことで、現状の教会を非難する声だけが身分の上下を問わず、王都に満ちた。
教会は、それを主導したのはアルスを支持する聖職者だったと発表。
教会よりも王の方が批判しやすい世の中のため、教会の言いなりになったまま、腐った聖職者を放置したアルスに対する非難が沸き起こった。
教皇の手によって、ゴトフリーとデリックをはじめ、不正に関わっていた聖職者たちは破門され、王都から追放されていったことも、教会が責任を取ったとみなされ、それなら許してもいいだろう、という空気が流れだした、ということもある。
対照的に、アルス王に対する批判はさらに強まっていった。
神学者や信心深い上級貴族たちが、この国の王は、天使の子孫であり、聖職者を破門する権限も持っている、と指摘。
破門すべき悪徳である性的虐待を行っていた聖職者を放置していたことは、すなわちアルス王も破門されるべき悪徳を行っていること同じだ、というわけだ。
アルス王はそれに対し、離宮に教皇を呼びだした。
「なんだか、動き出したらとんとん拍子だなあ」
教皇の味方として、ディアナは離宮に行くことになった。
身の危険があるから、セリカはオーランドのもとで待機している。
「わたし、こんなくだらない、すぐ壊れちゃうものに苦しめられてたんだ」
車窓をつまらなそうに眺めるディアナに、レミーは「いや、すぐ壊れるものじゃなかったぜ」とつぶやく。
「ディアナが頑張ったからだと思うぜ。絹がなかったら、あの少年がディアナのところに来ることもなかった」
「セリカには、感謝しなきゃね」
そんな話をしているうちに、離宮についた。
教皇に付き従って大広間に入ると、がらんとした大広間の奥に、アルスが一人で座っていた。
娼婦たちとディアナを脅したときのにぎやかさが、嘘のようである。
「なぜだ! なぜここに異端審問官を引き連れた教皇がいる?!」
がなるアルス。教皇がびくりと肩を震わせ、大広間の真ん中で足を止める。
「教皇、あなたは正しいことを行えばいいだけなのです」
ディアナの励ましに、教皇は口を開く。
「アルス王が異端かどうか、という話ならば異端ではありませんでした」
「だろう!」
「しかし、そもそもの話、信仰心が全くなく、聖職者の悪徳を非難するどころか酒と女におぼれ、まったくといっていいほど神を信じていないと判断せざるを得ません。あなたは、無駄に民を苦しめた。それは、もはや神のしもべや、神が救うべき人間ではないことを証明している」
教皇は息を吸い込む。
「よって、現王アルス・サリンジャーを破門する」
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