世界を変える
37.みんなで作戦会議をする話
甘い時間はあっという間に去り、現実と立ち向かう時が来た。
「オーランド殿。教会は私に対して、対決姿勢を見せているということで意見は一致しているよね?」
ディアナ、セリカ、絹の娘の代表としてミルキー、レミーと、オーランド、フォーサイス、ニールは、ディアナの部屋で顔を突き合わせていた。
今回は政治的な話のため、政治は苦手だ、と言って絹の販売を担当しているエドガー・キーツは欠席だ。
「ああ。そして、俺ともだ」
オーランドが深くうなずく。
「活版印刷によって、この前の事件は『賊が教会の馬車を乗っ取り、異端審問官と皇太子を守ったノーデン領主が負傷』という、教会の警備の不手際を非難しつつ、直接対決も避ける形で発表している……騎士さんの助言もあって……それよりも、オーランド殿の意見を、確認できなかったから」
これは、ディアナとセリカ、騎士の三者で話し合った結果である。
オーランドの看病にセリカが行くことを打ち合わせるとき、この話もしていたのだ。
「これはれっきとした暗殺未遂よ! しかも二回! ガツンと一回、思い知らせる必要があるんじゃないの!?」
一番過激だったのは、セリカである。
「でもそれやると、今じゃあ破門待ったなしですよ?」
と騎士。「それよりも、今、私たちはデリックとゴトフリーの身柄を押さえています。彼らを有効活用しましょう」などと、邪悪に笑う。
「有効活用?」
ディアナが首をかしげる。
「教会には、デリックとゴトフリーはオーランドと同じく重傷で意識不明、って伝えてあるんです。こちらには腕のいい医者と神父がいるから、手当は万全、といって」
「人質ね。効くのかしら?」
「効きますよ。ゴトフリー、って今の教皇の愛人の息子ですから」
「うわー最悪」
「ヒルダのところにも、体を売っていた時に神父っぽい人が来たって言ってたけど……」
ディアナとセリカが思い思いにドン引く一方で「いいじゃないですか、おかげでいい切り札が手に入ったし」と騎士はうきうきした空気を隠さない。
「なんであなた、そんなにたのしそうなの……」
理解できない、とセリカが言う。
「趣味ですから! こういう策略の張り合い!」
「そ、そう……」
「策略っていったら、戦う時にやるものだ、ってイメージがありますけど、戦いを避けるためにも使うものなんですよ。今回は、オーランド様が回復するかどうかまだわからないから、こちらの立場を明確にしつつ、教会と対決する姿勢は見せないようにしましょう」
「でも、対決するときに私たちが言っていることが矛盾しないようにもしなきゃ」
騎士はディアナにうなずく。
「そのあたりは抜かりなく。草稿ができたら皇太子様に差し上げますので、お好きに修正なさってください」
このようにして、ディアナはセリカが看病に行っている間、自分とオーランドが襲われたことを発表した。
同情する声が多い一方で、やはり皇太子の絹づくりは教会の教えからすれば異端で、間違っていたのではないか、という批判の声もあった。
一番多いのは、同情と批判の混ざった意見だった。
皇太子さまの絹づくりうあ、お人柄はとてもいいけれど、今までの習慣からは離れていて、異端になっていないか心配した教会が、皇太子様を呼び出した。
そして、そこに賊がやってきて、教会の邪魔をした。
だから、教会が皇太子様に対してなにか見解を発表するまで、様子を見ておこう。
この日和見をどうにかするには、教会に「皇太子様がやっていることは正しいことです!」というお墨付きを出してもらうしかない。
「何か、教会を言いくるめるような案だとか、教会に言うことを聞かせられるようなこととか、ないかな?」
ディアナが相談すると、オーランドは顔をしかめた。
「教会を脅せそうなことならある。だが、あなたに言っていいものか……」
「主君に隠し事か?」
ディアナが声を低める。オーランドは「まあ……そういわれてしまえば、そこまでですが」と、言葉をにごす。
「はっきりしろよ、男なら」
レミーのあきれ声。それにニールが「違うんです! むしろ男性だからこそ、皇太子ディアナ様に配慮してる面があって」と反論する。
「単純に、若い女性にするには、刺激が強すぎる話なんです」
ニールの言葉に、ディアナはピンときた。
セリカがオーランドとけんかして、ディアナのもとへセリカがやってくるきっかけは、教会が関わるひどい事件だった。
女の子が、命を落とす。
「もしかして、男装した女の子に子供を産ませて、難産で死なせるような?」
オーランドは目を見開く。
「その……とおりです」
「セリカから聞いたよ。そのこと」
「ハーヴィーの話を、聞いていたのか……」
顔を見合わせるオーランドとニール。
気まずい沈黙がやってきて、しばらくだれも口を開けなかった。
「こんな時にさ、あたしなんかがあたしが気になっただけのことを聞いていいのかわかんないけどさ」
静寂を破ったのは、まさかのミルキーだった。
「ハーヴィーって、もしかしてあたしに似てるかい?」
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