31.ディアナとオーランドが教会に呼び出される話
異端の疑いあり、という呼び出し状が来て、ディアナはセリカと顔を見合わせた。
「
と、セリカ。ディアナも頭をひねる。
「うーん……天使の子孫が異端なわけない! って反論するとか?」
「なりません! 行かなければ、異端を認めたことになります! いくらセリカ様のお考えとはいえ、このブレナン、絶対にディアナ様を教会にお連れいたします!」
考え始めた二人をブレナンが凄まじい勢いで止める。
「ブレナン先生、なんで?」
「異端とはつまり、破門です。地獄に落ちることが決まっている人間は、周りの人間にとっては、地獄の悪魔の仲間も同じです。無視されるならいい方で、殺されても誰も何も言わないから、ならず者から面白半分に殺されるかもしれないのですよ!」
破門が恐ろしいものだと身振りまでつけて表現するブレナンに、ディアナは何だかむかついてきた。
似た状況なら、私、
「なにそれ。まるで、絹を発表する前の私じゃない! そんなにひどいってわかってるなら、なんで私をママからかばってくれなかったの!」
怒りをあらわにしたディアナに、ブレナンは口を閉じ、一歩後ずさった。
「私は……ただ、一緒にいたかっただけなのです」
確かに、私がママ……いや、ナオミ王妃ってこれからは呼ぼう。に髪を切られて【皇太子レーン】に仕立て上げられた部屋には、たくさんの高位の貴族がいた。
アルス王がセリカを暗殺しようとしたり、ナオミ王妃が私を教会を使って刺し殺そうとするくらい、貴族は暗殺を一つの手段としてしか見ていない。
だから、あの時ナオミ王妃と、私と、ブレナン先生で抵抗していたとしても、三人まとめて殺されていたのかもしれない。
そう考えると、ブレナン先生の高度は、ある意味ディアナのためだった。
それでも、ディアナの気持ちは収まらない。
「じゃあ、ディアナが自分が自分じゃないものとして扱われて、いつかバレるかもしれない嘘に怯え続けていても、一緒にいられるならそれでよかったってこと? 小鳥をかごに閉じ込めるように?」
「そ、そうではなく……破門された人間は、人間として扱われない、とセリカ様にわかって頂きたかっただけでございまして……」
「人間として扱われない? それならいっそのこと、私をレーンとして扱わせた連中全員、破門しちゃえばいいんじゃないかな。 私の気持ちを味わえばいい!」
カリカリした思考でディアナは吐き捨てる。
でも、代わりがいる状態だと、暗殺してどかすべき、政治の駒として扱われてしまう。
皇太子でも暗殺されるんだ。もうこうなったら、王様になるしかない。
それなら、アルスをなんとかして破門すればいいんじゃないのか?
「あはっ」
「私は……私なりに、皆様の幸せを考えているだけです」
軽く笑ったディアナから、ブレナンがまた一歩距離を取る。
セリカが「ディアナ」と低い声で呼ぶ。
「あなたが怒ってるのは、正しいわ。でも、自分を大切にしてくれる人を傷つけるのは、間違ってるわよ」
「でも……」
「起きて、もう二年も経ってしまったことは変えようがない。それを今責めても、何も起きない。今は教会の企みに乗らないと、突破口が見えてこない時期のようね」
「そうかな?」
「ええ。私たちは、女性や苦しんでいる民を助けているという善業で、みんなから信頼されているの。でも、異端とされてしまえば全てが悪にされてしまうわ。だから、ミルキーたちを守るためにも、自分たちは異端ではないと、証明しないといけないわ。教会に行く以外の手段がないみたいだし、今回だけは教会に行きましょう」
「うん……」
セリカに言われ、色々と納得できなかったがディアナはうなずいた。
「この手紙は教会からの脅しよ。堂々とするのよ。ディアナは、間違っていないのだから」
「わかってる」
それから教会向けの受け答えなどの想定問題をつくるなどして対策を積み重ね、ついに教会から迎えがくる日になった。
「でもなんでここにオーランド様がいるの?」
オーランドとフォーサイスが、当たり前のような顔をして自分の隣に並んでいた。
「集合場所として王城を指定された」
オーランドは平然と答える。
「もし、破門されたらどうしますか?」
その質問は、無意識にディアナの口からこぼれていた。
オーランドは目を見張り、その場で固まった。
「オーランド様、私が答えましょう」
「フォーサイス、頼んだ」
フォーサイスが、ディアナの耳に口を近づける。
「そ、そうですね……昔の話をしましょう。スピノザという人は、ユダヤ教……この国の教会のような、宗教を信じる共同体です。そこから破門されても、世俗的に生きていくことができたそうですし、破門されても王様としてやっていくことができた人もいます。もし、この国で皇太子様が生きていけないと思うなら、私の国にいらして下さい。あなたがあなたとして生きていける場所なんて、いくらでもあるんですから」
「ありがとうございます」
と、教会の馬車が着き、中からゴトフリーがおりてきた。
「皇太子殿下と、オーランド様以外はお引き取りください」
「皇太子さまは体が弱い。もし車に酔われた時、適切に対処できる者が必要だ」
レミーが一歩前に出る。
「まあ、良いでしょう。お乗りください」
「で、でしたらこれを!」
フォーサイスが救急キットをレミーに渡す。
「使い方は、それぞれの袋に書いておきましたから!」
「ありがとう!」
「なんだそれは?」
フォーサイスから救急箱を受け取ったレミーを、ゴトフリーはなめまわすように見つめる。
「薬箱だ」
「ほう? まあいい。皇太子様、お乗りください」
「行ってくるね、セリカ」
ディアナは馬車の一番奥に座り、隣に向かい側にオーランド、隣にレーンが座る。
ゴトフリーは、オーランドの隣に座る。
馬車の窓には幕がおろされ、釘で張り付けられている。
馬車が走り出してしばらくして。
馬車の中で、妙なにおいをディアナは感じた。
ごま油のような、それより青臭いような、吐きそうな気分になるにおいだ。
外を見たら気分が良くなるかな。ディアナはそっと釘を布で引っ張って抜き、緩んだ場所から外をのぞく。
ディアナの目に、衝撃的な光景が飛び込んできた。
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