止まらないカウントダウン

√ぴぃ

初作

「誕生日プレゼントは何がいい?」


「時間」



両親は一瞬驚いた後、冗談言うなと言いたげに笑いかけてくる。

決して冗談なんかではなかった。単に欲しい物が無かったのもあるが、高2の夏、私は時間に飢えていた。


限られた時間は勉強、部活、ゲーム、人間関係、睡眠などによって消費されている。

誰もがもっと時間があったらなと思う時があるだろう。


怠惰や休憩での浪費を無くせば良いじゃないかと思うかもしれない。

でも私にとって、だらける時間なども立派な必要事項なのだ。


結局まともに欲しい物を答えられずに迎えることとなった誕生日、私は答えのない深い

"考え"を貰うことになる。




いつも通り携帯のアラームで起床し、学校に行くための準備を終え、顔を洗い、朝食を食べようとリビングへ向かうと、1年に1回だけ「おはよう」よりも先に


「お誕生日おめでとう」


と声をかけてもらえる特別な日であることに気がついた。自分でも忘れていたため少し驚き、同時に嬉しかった。


用意された朝食はそのままに真っ先にプレゼントの箱を受け取り、中身を確認する。

まだ電源の入っていない


「デジタル時計...」


時計なんか携帯で十分だし、これなら現金か図書カードの方がマシだと内心思いつつも


「ありがとう」


と言葉にして急いで朝食を詰め込み、学校へと向かった。


いつも通り学校でも時間割に追われ、提出物の期限に追われ、生徒会活動の会議でも時間に追われ、疲れ果てて家に帰った。


後は寝るだけの状態までするべき事を済ませ、朝は時間が無かったのであまり見なかったデジタル時計を机に置き、電源を入れてみた。


【27400(日)】


「ん......??」


まともな時刻が表示されず、このような意味不明の数字が表示されていた。


「不良品かよこれ...」

「今日、日曜じゃねぇし」


限度を超えた脱力感により、両親に文句を言う気にもなれなかった。


「もうどうせ使わないしな」


そのまま少し携帯を弄りだらだらした後、眠りに落ちた。



「人間は時間があるから生きているのか?

違う。生きるために時間がある。時間、それは支配されることなく、利用すべきもの...」


光に包まれた誰かの声が聞こえた。




次の日

いつものように携帯のアラームで起床し、学校へ行く準備をしようとすると、転がっている昨日貰った出来損ないのデジタル時計が目に入った。


【27399(日)】


鳥肌が立った。

何故だか分からないが起きた直後だからか、頭が冴え過ぎていた。


私は誰も知ることのできない、確かな時間を貰っていたのだ。




よく時間だけは皆平等にある。などと受験生に向けた言葉があるだろうが、長い人生でみれば時間さえも平等ではない。

いつ突然の終わりが来るか分からないのだから。


数値として目に見える『残り時間』を貰ったあの日以来、あのデジタル時計は画面を黒く塗りつぶして押し入れの奥に放り投げてある。


残り約27000日程度か...数字にするとあまりにも少ない気がする。

あの日から1日の終わりに今日という日を無駄にしないで過ごせたか考えるようになった。


あの日、私は人生において、

時間の許す限りに何かを成すのではなくて、

何かを成すために時間があるのだという

"考え"を確かに受け取った。

最高のプレゼントだ。



今も誰もが持っている不思議なデジタル時計は刻々とカウントダウンを進めている。

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