Epilogue
最終話.未来へ
何だろう?
手が温かい。
「あれ……」
目を開けると、そこは医務室だった。
そうだ、俺は竜ヶ峰紅夜と戦って、最後相討ちになったんだ。
あの時は、死んだと思ったが、考えてみれば腹を刺された程度じゃ人はそう簡単に死なないか。
せっかく今まで運が助けてくれて、無茶をしながらも生きながらえてきたというのに、こんな形で死ななくて本当によかった。
「蓮君……!」
ん?
目覚めてからボーっと天井を見つめていたが、突如下の方から声がする。
「星川……」
そこには星川がいて、俺の手を握っていた。
「よ、よかったぁ……。相討ちになって倒れた時は、本当に目の前が真っ暗になったんだから」
「ごめん、最後の最後でまさか読まれるとは思わなかったよ。完全に油断しちゃった。でも勝ててよかった」
俺はそう言って星川に笑いかける。
随分と心配をかけてしまったようだ。
ま、目の前で腹を刺されるなんていうショッキングなことが起こったんだ。
俺も逆の立場なら、少なくとも平静ではいられないだろう。
あ、というかそんなことよりも……。
「てか結局竜ヶ峰紅夜は倒せたんだよね!?」
「え、あ、うん。そこは心配しなくても大丈夫。竜ヶ峰紅夜の死はあの戦闘に参加していたほとんどの人が確認しているから。で、それからヒーローは指揮系統が麻痺して総崩れ。大打撃を受けて今回の作戦は終了したよ」
「おお! 良かったぁ。あれで倒しきれてなかったら流石にショックで立ち直れないところだったよ」
そう言いながら俺は頭を掻いて苦笑いをする。
けど、そっか。
終わったのか。
全部……。
「あとさ、星川の目的を手伝うことが出来てよかったよ。しかもこんなに早く」
正直、約束した時はこんなに早く達成できるとは思ってなかった。
「そうだね。ありがとう。なんか、自分がどう過去に決着をつけるのが正解かは今でも分からないけど、気持ちはすっきりした気がする」
「はは……。きれいさっぱり決着をつけるという訳には行かないか……」
何とも正直な感想だ。
嘘つかれるより全然いいけど。
でも、後は星川の問題だ。
俺は何もできない。
まあでもここまでくれば、時間が解決してくれるような気もする。
それに、竜ヶ峰紅夜を倒すのは、星川だけじゃなくて一ノ瀬さんのためでもあるしな。
早く伝えたいな。
いや、竜ヶ峰紅夜を俺が倒したことは知ってるかもしれないけど、こういうのは自分の口で伝えたいからな。
そう思っていると、ガタッと扉が音を立てて開き……。
「お、起きてるじゃないか」
よく覚えのある声と共に何人かの人間が入ってくる。
6番隊の仲間たちだった。
いや、それだけじゃない。
桐原さんや戸塚など、かかわりのある人間も来てくれているし、ゾディアックのトップである一色さんもいる。
さらに……。
「一ノ瀬さん……! もう体の方は大丈夫なんですか?」
「まぁな。まだ完治したわけではないが、普通に日常生活を送る分には問題ないよ。何せここの医療技術は高いからな」
そうだったのか。
あの爺さん。
優秀だったんだな。
「にしても、まさかあんなに早く倒してしまうとはな。ありがとう。これでこの世界に未練が無くなったよ。あ、いや、この世界って、超能力の世界ってことな。別に生きることに未練が無くなったって意味じゃないからな?」
あーね。
聞いててギョッとしたわ。
「びっくりさせないでくださいよ」
「はは、悪い」
「でも、これでようやく落ち着けますね。最近はヒーローとのごたごたがあって忙しかったですが、これでしばらくは立て直せないでしょう」
怪我をしてしまったが、そこまで影響はなさそうだ。
色々と、なんだかんだ良いこと悪いことあったけど、最終的には丸く収まったって感じだ。
「おい、何をすべてが終わったように安心しているんだ?」
「え?」
俺が安堵していると、突如新田さんがそんな驚かすようなことを言ってくる。
「ヒーローが衰退したからって、俺たちの敵は他にもいるだろう。また、他の秘密結社との小競り合いの日々が始まる」
あー、そういえば。
共闘して、すっかり仲間になったような気になってたけど、そういえば敵同士だったな。
「そこで、今日からはお前が6番隊の隊長になるんことが決定した」
「は?」
どういうことだ?
さっぱり意味が分からん。
「何故です!? 6番隊の隊長は新田さんにこの前決定したばかりじゃないですか!」
「あぁ、だがお前は実力的にももう俺よりも格段に上だし、実績も十分だ。ここでは年齢なんかよりも実績や実力の方が重視されるからな」
マジかよ……。
まだ俺ゾディアックに入って半年も経ってないってのに……。
辞退とかはできないのだろうか?
「ちなみに拒否権は当然ないぞ?」
……先回りされたよ。
「頑張れよ」
いつの間にか隣に来ていた戸塚がニヤニヤと笑みを浮かべながら、そんな激励なのか煽りなのか分からない言葉を送ってくる。
やるしかないのか。
憂鬱そうに口では言ったが、でも本心では別に嫌だと思ってはいなくて、むしろワクワクしている自分がいた。
「こりゃ、俺たちの戦いはこれからだってやつですか」
「ま、そういうことだ」
その後、数秒の沈黙が流れた後、拍手が医務室に鳴り響いた。
超能力者高校生の俺は、悪の組織の構成員! 不知火 翔 @greataqua0926
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます