第79話.牙を剥く敵
チャンスだ!
一ノ瀬さんとの約束を果たすための!
そして、それは星川の目的にも通じている。
今まで、ヒーローのトップというだけで、全く手がかりを掴むことのできなかった竜ヶ峰紅夜。
俺がこいつを倒す。
そして拷問でもなんでもやって、こいつの持っている竜ヶ峰紅夜に関する情報を全て吐かせるんだ。
でも肝心の勝つための方法は……。
実はある。
でもそれは、非常に不確実で、それが可能かどうかは全然分からない。
そんな全然勝ち筋とは呼べないような方法で。
正直、この状況の最適解は、もう勝ち目がないから逃げることだと思っている。
でも、こんなことを知ってしまったら、意地でも引くことが出来ない。
だからやる。
俺が狙っているのは、あの時の状態。
そう、一ノ瀬さんを助けるための戦いだ。
あの時から、俺は強くなった。
それでも、あの時と同等以上のパフォーマンスが出来たと思えたことは無い。
だが、もしも今、あの時と同等以上の力を発揮できたなら、こいつとも互角以上に戦えるはずだ。
そのために何をすればいいか。
それは分からない。
あの時の動きは、自分の身体じゃないような気さえして、今でも夢の中の出来事なのではないかと思うこともある。
それでも、不可能ではないと断言する。
夢のように思えても、あの出来事は間違いなく現実に存在した。
ならば、絶対に可能に決まっている。
多分、あの時の状態は、俺の想像ではスポーツにおける「ゾーン」のようなものだと思う。
あの時は確か、敵の位置を探ることだけに意識のすべてを集中させてた。
そしたら、気配みたいなのを感じて……。
それで体が独りでに動いたんだ。
とにかく、余計なことを考えずに、こいつを倒すことだけを考える。
やるべきことを頭の中で整理して、俺はもう何度目か分からない、敵ヒーローへの突撃を敢行した。
余計なことを頭に入れず、目の前の敵を倒すことだけに集中して、ひたすら攻撃を行う。
「あれ、もう聞きたいことはいいの? にしても、これだけの実力差があってよく心が折れないねぇ」
大丈夫。
この挑発するかのような余裕の発言にももう慣れた。
今更怒りを誘われるようなこともない。
相手の動きを読みながら……。
って、違うだろ!
考えてちゃあ、いつもの戦い方と変わらない。
ダメか。
いや、そういえば、あの時は今とは違う状況だった。
そう、あの時は自分の身が危険な状況にあったんだ。
つまり、俺がゾーンに入るためのトリガーは、命の危機ってことか。
それなら、ゾーンと言うよりは火事場の馬鹿力に近いか?
いや、名前なんてどうでもいい。
だったら、どうする?
こいつには俺を殺す気がない。
足止めで十分と考えている。
ならば、自分から危険に足を踏み入れてみるか。
例えば、普段なら絶対にやらないような雑な戦い方をするとかだな。
いや、雑と言うよりは、リスクが高すぎる戦い方だ。
戦闘中に無造作にテレポートを使ったりとかだな。
本来、これをすれば、後手に回ることになり、敵に戦闘の主導権を譲ることになる。
圧倒的愚行。
しかし、こいつが俺に攻撃してこないというなら、その危険性は無い。
逆に、敵の意識の外を突くことが出来て、動揺のうちにあっさりと勝負を決めることが出来る可能性すらある。
そうでなくとも、テレポートを戦闘中に行うことができるなら、俺の戦略の幅は圧倒的に広がる。
もしも、敵が今までのような舐めプをやめて、攻撃を仕掛けてきたなら、それはそれで好都合。
俺は死のリスクを負うことが出来て、最高のパフォーマンスを発揮できるようになる……かもしれない。
つまり、どう転んでも、俺にとっては望み通りの展開となる。
やってやる!
テレポート!
俺はひとまずベタに背後への移動を狙ってテレポートを使う。
「……!?」
避けられる。
だが、今までのようなニヤついた表情は消えて、真剣な表情に切り替わった。
予想してなかったな。
俺は思わず口角を吊り上げて、ニヤリと笑みを浮かべる。
「おもしれぇ。そういう手を使ってくるってんなら、こっちも本気で相手することにしよう。そういうことをするってことはこうなる覚悟も持ってるんだよな? 後悔だけはするなよ?」
そう言って敵ヒーロー、橘創二は飛びかかってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます