第78話.怨敵
いや、今はこいつが何者かなんてどうでもいい。
仕留めること。
考えるべきはそれだけだ。
沸き上がる雑念を排して、再度俺は突撃した。
だが、躱される。
何度も。
何度も。
抑え続けてきた雑念が、もう抑えられなくなってきているのが自分でも分かる。
焦り、屈辱。
最初は自分の本心をだまして、倒せると思ってきたが、今はその気力すらない。
すなわち、圧倒的なまでの実力差。
気合やまぐれじゃ決してひっくり返らないような。
だからこそ、俺は工夫で実力差を覆さなくちゃならないのに、それまであっさり看破されて、不可能だと知らされた。
なら、どうすればいい?
今のこの絶望的な状況を。
「マジで、あんた何者なんだよ!」
そんなマイナスな思考に陥って、気が付いたらこんな言葉が口をついていた。
するとヒーローも動きを止めて……。
「なんだ? おしゃべりする気にでもなってくれたのかな? 俺的には足止めが目的だからそれで戦うのをやめてくれるならありがたいからいいけどねー。なんでも聞いてくれていいよ」
相変わらずのふざけた態度だ。
けど……。
「はぁ……はぁ……」
こっちも随分と長い時間動き回って、かなり息が上がってる。
だったら……。
「あなたはどういう立場の人間なんですか?」
息を整えながら尋ねる。
この人の事だから、奇襲とかはしてこないだろうが、一応油断はしない。
体を休めるだけにとどめる。
「立場ねー。うーん、早速難しい質問だな」
目をつぶって考え込むような素振りを見せる。
おいおい、随分と無防備だな。
もしかして今なら……。
卑怯だのなんだの言われようが、俺たちゾディアックにそんなものは存在しない。
勝つためなら、手段は選ばない。
音もなく俺は動き出す。
そして懐からナイフを引き抜いた。
そして一気に肉薄。
そのままナイフを振るおうとするが……。
「おっと、人が真面目に答えようとしてるのに、その隙をついて攻撃するなんて……。随分と姑息だね。そういうの嫌いじゃないけどさ」
ニヤリと笑いながら、ひらりと躱して言う。
おいおい、冗談もほどほどにしてくれよ。
どう見ても油断してただろうし、てか間違いなく油断してたのに、あれを避けるって……。
マジで未来見えてるんじゃないかと思うほどだ。
「で、俺の立場だったね。多分こういうのが正しいかな」
こんなことをしても律義に答えてくれるのね。
まあこいつの場合、律義と言うよりは俺を舐めきっている……いや、もはや敵とすら認識していないだけだろうけど。
そして口を開く。
「ヒーローの頂点に君臨する男、竜ヶ峰紅夜。その右腕、
「……!」
その瞬間、俺は雷に打たれたかのような衝撃を覚えた。
竜ヶ峰……紅夜だと……!?
「君もゾディアックの構成員なら、竜ヶ峰さんのことくらい知ってるだろ?」
知ってるも何も、そいつを倒すことが俺の使命だってんだよ……!
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――ヒーローとの大規模戦闘の翌日。
目を覚ました一ノ瀬さんを見舞いに、ゾディアックの多くの構成員が医務室に詰めかけた。
その時に俺は、一ノ瀬さんに引き留められて1人残ることになった。
そこで、長い長い一ノ瀬さんの過去との格闘を聞いた。
あの話はすでに戸塚から聞いてはいたが、本人の口から聞くと、その話の内容だけに、重みが一段と違った。
あの時に副隊長なんかに任命されたんだよな。
今のところ副隊長らしい働きは一切してないけど。
でも、聞いた話はそれだけじゃなくて……。
『あと、もう一つ言いたいことがある。これは出来ればの頼みなんだけどな……』
『頼み?』
『あぁ。俺は果たさなくちゃいけないことがあったんだ。でも、もうそれは果たせない』
自嘲したような、そんな浮かない表情で、静かに俯いて一ノ瀬さんは言った。
その言葉に、俺は戦うことでしか果たすことの出来ないものなんだろうな、と察した。
この人は、超能力を失って、もう二度と自分で戦いの舞台に姿を現すことは出来ないから。
『竜ヶ峰紅夜。俺を殺そうとしてきて、雄吾さんを殺したやつこそ、ヒーローのトップだ。あいつは、狂人だ。やつを殺すために、俺は今日までゾディアックで戦い続けてきたんだがな……』
狂人……?
どういうことだろうか。
『できればさ、俺の代わりに奴を殺してほしい』
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