第77話.強敵
再び雑居ビルの中に舞い戻る。
すでに気づかれているだろうか。
だとしたら、今のこの状況は俺にとって大幅に不利だ。
しかし、もしもバレていないのなら……。
俺は階段の扉のノブに手をかける。
これを一瞬のうちに開けて、奇襲をかける。
一発でノックダウンとは行かずとも、圧倒的に有利を取れるはずだ。
「ふぅ……」
小さく息を吐くと、俺は扉にそっと足をかけて、ノブを音をたてないように回した。
しかし、扉はまだ開けない。
ここは一気に扉を蹴破るようにして入り込む。
あまりのんびりしていると、せっかく相手の監視から逃れたかもしれないのに、それが無意味になってしまうかもしれないからな。
よし、行くか!
――バタン!
「……!?」
いた!
5階と6階の踊り場で座り込んでいる。
やはり上手くクレヤボヤンスから逃れることが出来ていたか。
結構賭けの要素が強くなってしまったが、最終的に勝てばよかろうなのだァァァァッ!!
慌てたような表情で、今頃態勢を立て直そうとする。
これならテレポートで一息で接近しても間に合う。
俺はテレポートで背後に一瞬で移動。
動きは読まれるだろうが、その態勢から反応できるかな?
「パイロキネシス!」
炎を右手に纏い、首に手を伸ばす。
炎を纏ったまま首を掴めば、勝ちは確定だろう。
50㎝ほどに近づくまで、敵ヒーローは振り向くことすらままならない。
勝った!
俺は勝利を確信した。
しかし、その瞬間、急に敵ヒーローが体を反転させてくる。
「んなっ……!」
予想外の早すぎる動き。
だが、それでも俺の圧倒的有利は揺るがないはずだ。
自分が急激に余裕を失っていくのが分かる。
それでも、俺はそれを押さえつけるように腕を伸ばす。
しかし……。
――バシッ。
伸ばした腕が弾かれる。
そのまま敵ヒーローは後ろに飛び退く。
動揺するうちに一瞬で間合いを取られてしまった。
「くっ……」
あの圧倒的有利な状況から、一瞬で5分の状況に持っていかれてしまった。
確かに、油断はあった。
しかし、それがパフォーマンスに及ぼした影響は全くと言っていいほど無かったはずだ。
となると、単純な実力差か?
いや、そんなわけがない。
俺は本部ヒーローともやり合えるほどに成長したんだ。
そこまでの実力差があってたまるか。
焦るな。
目の前の敵に神経のすべてを集中させる。
すると、目の前のヒーローが口を開いた。
「君、中々やるね。さっきは流石の俺も驚かされたよ。けど、近接戦闘はお粗末。発想とセンスは一級品。そこら辺のヒーローは軽く凌駕する。けど、それ以外は並みかそれ以下ってところかな?」
「あぁ?」
こいつ……。
いや、落ち着け。
本心でもあるだろうけど、挑発の意味もあるはずだ。
にしても、この状況で敵である俺とお喋りしようなどと考えるなんて、随分と自信があるんだな。
それらのことから、こいつが今までの普通の本部ヒーローとは違うというのは、俺も薄々感じてきている。
でも、勝ち目が薄いからって逃げるわけには行かないよな。
決して無理をするつもりはない。
だが、勝つ気がないわけでもない!
俺はヒーローに一気に飛びかかった。
俺の近接戦闘がお粗末?
さっきの一瞬の動きだけで何が分かったってんだ!
その舐めた態度、一瞬で凍り付かせてやる。
まずはパイロキネシス。
近接戦闘で一番使う能力だ。
こいつを使うだけで、素手が殺傷能力を持つ武器に早変わり。
まずは右ストレート!
「おっと!」
しかし、軽々と躱される。
かなり余裕がある感じがする。
「お喋りには付き合ってくれないかー」
チッ。
殺し合いの最中だってのに、敵に向かって話しかけるとか、本当に余裕だな。
クソ!
やけくそ気味に攻撃を続ける。
しかし、避けられる。
どんなに工夫して攻めても避けられる。
さらにムカつくのが、反撃は一切してこないのだ。
いや、反撃されたら死んじゃう可能性まで十分にあるから、ありがたいことではあるのだが。
この明らかな舐めプ。
流石の俺も平静ではいられない。
だが落ち着け。
予想外に時間がかかってしまったが、これは実力差的に仕方のないこと。
そろそろ新田さんがヘルプに来てくれるはずだ。
ここは何とか抑えて、新田さんのヘルプを待つ。
それまで持ちこたえれば……。
「あれ? その表情。君の上司の助けでも待ってるのかな?」
「……!?」
な……。
「お、その反応、当たりかな?」
クッソ、また表情に出てしまったのか……。
「でも、それはあり得ないよ。君たちがさっき倒したヒーローと違って、今君らと戦ってるヒーローは全員俺が率いる精鋭だからね」
そしてそのヒーローは、「流石の俺もそうじゃなかったらこんな遊んでないよ」と付け足した。
クソ、戦闘を遊びと言いやがったよこいつ。
てか、つまり俺が一人で何とかしなきゃいけないってことか。
つーかこいつ、一体何者だよ。
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