第76話.打開策
俺たちは、幸先よく敵ヒーローの集団を速攻で撃破した。
そのまま、テレポートでハーラルアジトへの道のりを再び進んでいたのだが……。
「とまれ!」
新田さんの声。
まさか……。
嫌な予感に顔を上げる。
すると……。
「……またですか」
視線の先には、さっきと同じような光景が。
流石に数が秘密結社連合の3倍あるだけはある。
次から次へと。
まるで中世以前の戦争のように、欠けた穴は後続が出てきて、それを埋める。
「仕方ないな。さっきと同じようにはいかないだろうから、今度は慎重に行くぞ」
新田さんが小さく、しかし確実に仲間たちには伝わる声量で指示を出す。
そして各々が自分の標的を定めて、散らばっていく。
俺は……。
ぐるりと周囲を見渡して、フリーの敵を探す。
俺の相手はあいつかな。
標的を定めると、俺はその敵ヒーローのいる雑居ビルに入り込んだ。
慎重に戦いを進めるのなら、まずは相手に居場所をバレないようにしなくちゃいけない。
となれば、敵に近づきつつ姿をくらませるという、やりたい両方の行動ができる、雑居ビルの中に隠れるという選択がベストだろう。
だが、それは俺も同じなので、逐一クレヤボヤンスを使って相手の居場所を調べて行こう。
俺は早速クレヤボヤンスを使用する。
まずは屋上から……。
しかし、敵ヒーローの姿はすでに見えない。
中に入ったか?
俺は屋上にただ一つある扉をすり抜けて階段の下の方を調べていく。
すると……。
お、発見。
階段の5階の踊り場にいるな。
入り口入ってすぐのところに階段があるから、思ったよりも近いな。
ここからは足音を殺して慎重に行くか。
基本的にこのへ行く扉を開けると敵に位置を悟られて、確実に先手を取られることになる。
俺は相手の大体の位置は分かっても、正確な位置が分からないのに対して、相手は正確な位置が分かるからな。
つまり、これは我慢比べ。
先に隙を見せた方が負ける。
俺は階段へと向かう扉の横の壁に体を預けて、真剣を研ぎ澄ませてじっと待つ。
いや、この間にクレヤボヤンスを使うべきか。
俺は慌ててクレヤボヤンスを使用する。
敵の位置は……。
さっきの位置から動いていない。
もしや相手も同じくクレヤボヤンスを使っているのか?
今は俺の姿を探している最中か?
もしくはもうすでにバレているか。
バレているなら、迂闊には動けない。
逆に相手も俺の位置を知っているなら、俺がクレヤボヤンスを使っていることも知っているはず。
となれば我慢比べが始まってしまう。
けど、相手としては時間がかかるのは、むしろ大歓迎だろうが、逆にこっちは時間をかけずに速攻で決着をつけたい。
どうする……。
少しづつ焦りが募り始める。
いや、時間がかかれば新田さんあたりが自分の担当する相手を片付けてくれるはずだ。
そうなれば有利になるのはこっちのほうなのでは?
だがそんな他力本願な作戦はなぁ……。
なにより不確実なのが気に入らない。
他に何かないか……?
何か……。
でも、仮に策を思いついたところで、クレヤボヤンスを使用している敵からしたら、そんなものお見通しだ。
天才的な奇策を打っても、それが相手に筒抜けだったら、ハマるわけがない。
この状況になった時点で、俺はすでに不利なのだ。
そう、クレヤボヤンスを使われていたら、手の打ちようがない。
……?
いや、本当にそうか?
例えば、高速で移動して敵の監視を振り切ったり、相手の意識を俺から別のものに移したりできればあるいは……。
だがどちらも、相手の能力や読み次第になってしまうんだよな。
自分の力で成功率を高めることが出来ないというのが嫌なところだが……。
あまりのんびりしてもいられない。
一か八かやってみるか。
とりあえず後者の、「相手の意識を俺以外のものに移す」という作戦で行ってみよう。
前者は難しいだろうからな。
本部の実力あるヒーローを強引に振り切るってのは、あまり現実的じゃない。
さて、まずはサイコキネシスで物音でも立ててみるか。
その直後に、視線だけを動かして、窓の外に出る。
これでいこう。
俺は頭の中でこれからの行動をシミュレートする。
それを2回ほど入念に繰り返してから……。
――ガタッ。
近くに置かれていた掃除ロッカー。
その上にあったバケツをサイコキネシスで動かして、地面に落とす。
そこそこの物音がする。
この間、当然視線など動かさない。
視線を動かせば敵に怪しまれてしまう。
そして、物音をさせた直後に、俺は一気に視線だけを動かして窓の外にテレポートした。
薄暗い雑居ビルの中から、灰色の空をした屋外へ移動する。
そしてそのまま、同じ雑居ビル内に戻る。
ただし、その5階に。
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