第75話.道中
アジトを飛び出して、曇天の空の
実感が湧かないが、間違いなく俺たちに危険が迫っているこの状況。
だというのに、今俺はこの状況が楽しくて仕方なかった。
今まではついていくので精いっぱいだったこのテレポートによる移動が、今はかなり余力を残してもついていけているのだ。
それは、前回の戦闘で自分が大幅に成長できたことを証明していた。
成長が実感できるというのは、非常に気持ちがいいものだ。
気分が高ぶった俺は、ついに新田さんをも抜きかけるが……。
「おい、止まれ」
新田さんに静止を促される。
調子に乗って、「俺に抜かれたからって、止まれと?」などと言いだしかけたが、新田さんの見据える先を見て、息を止めた。
「早速か……」
新田さんの見据える先――雑居ビルの屋上には、ヒーローがこちらを見下ろしていた。
待ち構えられているのか。
やっぱり相手の掌の上で踊らされている感じがするな。
でも……。
「そんなもんは倒しちゃえば関係ないですよね」
「お前……随分と自信をつけたな」
新田さんがニヤリと笑いかけてくる。
そういえば、今までの俺と比べると随分と交戦的な言葉だ。
指摘されるまで気が付かなかった。
でも、これは悪い変化ではなく、むしろいい変化だ。
これは慢心ではない。
今までの俺は戦う前から負けていたが、今の俺は戦う前から勝っている!
「それじゃあ、能見の言う通り、サクッと倒すぞ!」
「「「おう!」」」
新田さんの号令で、一気にテレポートでヒーローに接近。
随分と危険な動きだが、それが逆に相手の予想を外した。
このあまりにも勢い任せな無鉄砲な行動に、敵ヒーローは面食らって反応がかなり遅れる。
そして、有利な状況を作れば、もうそれをひっくり返されないだけの地力を持っているのが、6番隊。
皆、あっさりとヒーローを仕留めていく。
俺も……。
眼前で驚愕の表情で仰け反る敵ヒーロー。
ま、こんな雑な戦い勝たされるとは思わなかったよな。
勢いで行っちゃったけど、本当に良かったのかと結構不安になる。
まあ結果的には成功しているんだけどね。
運が悪かったと思って、諦めて地獄へ落ちてくれや!
しかし、敵もいくらこんな状況でも無抵抗と言う訳ではなかった。
「このっ!」
パイロキネシスの炎を拳に纏い、崩れた態勢で攻撃を繰り出してくる。
しかし、それは最後の悪あがきという物だ。
止まって見えると表現したくなるような遅い攻撃を、ひらりと躱して、後ろに回り込む。
そして……。
「おらよ!」
後ろからナイフを突き刺した。
「うぐっ、がっぁぁぁ!」
あれ?
綺麗に心臓に刺さらなかったか。
とはいえ、ナイフをこれだけ深くさされれば意識を保つことなどまず不可能。
戦闘を継続することなんてありえない。
俺は蹴り飛ばして、敵ヒーローの身体をフェンスに押し付ける。
「あぁぁ! があぁぁぁ!」
「うるせぇ……」
俺は敵ヒーローの体を雑に持ち上げて、屋上からの落下防止のフェンスよりさらに高く持ち上げる。
「ほら、バンジージャンプだ。ただし、命綱はなし!」
「や、やめ!」
ヒーローが懇願するような目を向けてくる。
しかし、そんなことで手を止めるくらいなら、初めからこんな残虐なことはしない。
「じゃあねー」
俺は掴んでいたヒーローをフェンスの向こう側に放り投げた。
「あ、あぁぁぁ!」
絶叫しながら落下していく。
しかし、それもそう長くは続かなかった。
落下途中で意識を保っていられなくなっただろうし、地面に到達すれば文句なく死だからな。
この雑居ビルが7階建てであることを考えれば、見なくても当然わかる。
さて、新田さんたちの方はもう片付いたかな?
確かめるまでもなく、あの人たちならこれくらい何の問題もないと思いたいところだけど、それでも相手は本部ヒーローだからな。
誰か1人くらいなら万が一が起こる可能性は無いとは言えないよな。
俺はフェンスから軽く身を乗り出して、地上にテレポートする。
そして周囲を見渡して、新田さんを見つけた。
「新田さん!」
「お、能見。上からヒーローが降ってきたのを見たぞ。上手くやったみたいだな。いやー、随分と強くなった」
そう言って新田さんは自分の事のように喜んでくれる。
この様子だと、特に何事もなくすべてのヒーローを倒しきれたか。
奇襲みたいな感じだったから、倒せて当たり前ではあるが、やはり最初からこれだけ都合よく事を運べたのは幸先がいい。
「よし、それじゃあ全員終わったようだし帰るか!」
え?
全員終わったって……。
終わったのは俺と新田さんだけじゃ……?
そう思って、再度周囲を見渡してみると、いつの間にか6番隊メンバーが全員集合していた。
「あれ? いつの間に?」
「いや、お前以外は全員先に終わったから、周囲の索敵をしていたんだ」
それってつまり……今日も俺が一番最後ってことかよ。
はあ、成長したと思ったが、この人たちを抜くにはまだまだ実力が足りないようだ。
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