第44話.好調

 おっと、勝利の余韻に浸っている場合じゃないな。


 まだ終わったわけじゃない。


 奇襲が成功してこちらが有利に立てたが、人数の上ではそもそも劣っていたんだ。


 油断は出来ない。


 次に手伝えそうなのは……。


 新田さんの方……はすでに片付いていて、どこを手伝うか探し中か。


 ん?


 新田さんが消えた?


 テレポートか。


 移動先は……。


 あそこか。


 南沢さんが戦闘しているところだ。


 なら俺もあそこを手伝おう。


 基本的に集団戦闘は、戦力を分散させるよりも、集中させて各個撃破した方がいい。


 もちろん戦力を分散せざるを得ない状況になることもあるから、あくまで理想に過ぎないが。


 しかし、今はその理想を通せる状況。


 ならば3対1で確実に敵の数を減らしていく!


 そう思って俺が目標の背後に移動先を定めたところで、敵が逃げようとする。


 で、ですよねー。


 ただ3対1どころかすでに2対1でも十分に不利なのだ。


 敵を倒すことから、戦闘から離脱することに、目標をシフトするのは当然だ。


 いや、しかしこの状況は逆にチャンスなのでは?


 今敵はパイロキネシスを使った。


 つまりこれはテレポートを行うための布石だ。


 敵の視界を奪って自身の移動先を悟らせない効果がある。


 しかし、相手の頭の中に入っていない俺には、そのパイロキネシスはなんら影響がない。


 よって敵の移動先が見える。


 その後テレポートを使えば……。


 俺はテレポートの使用をやめて、ナイフを構えると、そのヒーローに意識を集中する。


 視線を読んで……。


 敵が消える。


「ここ!」


 俺は素早くテレポートを発動する。


 そうして移動した先は……。


「完璧!」


 俺は腕を伸ばすだけで、敵に届くほどの近距離に移動することに成功。


 そのまま敵が次のテレポートを使う暇も与えず、ナイフを一閃。


 凶刃が煌めいて、ヒーローの命をあっさりと奪った。


「おお、能見。ナイスだ。今日は冴えてるじゃないか!」


「れんっち、新人じゃなかったっけ? やるねぇ」


 遅れてやってきた新田さん、南沢さん。


 口々に俺の今の判断をほめてくれる。


 えへへ、それほどでもあるんですけどねぇ……って!


「そんなことやってる場合じゃありませんよ! 1人片付いたら次を――」


 そう捲し立てながら、俺は周りを見渡す。


 すると、すでに辺りには静寂が広がっていて、地面には敵ヒーロー横たわっている。


 胸部からおびただしい量の血が流れ出ていて、どれも一目で死んでいると分かった。


「お前に過ちを指摘されるほど俺はアホじゃないぞ」


「いくら私でも戦闘中にこんな呑気なことはしないよ!」


 だよな。


 南沢さんは普通に怪しいけど、新田さんは信用できる。


 この人は本当に真面目な人だからな。


 てか新田さんの発言何気に酷いな。


 事実だけどさ。


「てかこれどうするんですか? 死体の処理とか……」


「そんなことするわけないだろう。今は一刻を争う時なんだ。すぐに本部に戻る。今確認したら帰還命令が下りてたしな」


「え? 帰還命令ですか? このままハーラルアジトを攻めているヒーローを叩きに行った方がいいんじゃ……」


「俺もそらさんの真意は分からない。だが命令は絶対だ」


 空さん?


 確か一番隊隊長の名前だったっけ?


 って、それは今は関係ないか。


 にしてもいかにも組織人間の新田さんらしい発言だ。


「分かりました」


「よし、それじゃあついて来い。行くぞ!」


 そう言うや否や、新田さんが視界から消える。


「え、ちょ……」


 まだ他の隊員が……。


 そう言おうとした瞬間、一斉にテレポートで前方に移動している隊員の姿が映る。


 え、いつの間に……。


 って、俺も行かないと!


 俺は慌ててテレポートをして、新田さんたちの後を追う。


 相変わらずこの組織の練度には驚かされる。


 俺は心底そう思った。

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