第43話.強襲
「見つけた。人数は10人ぴったり。俺たちよりも多いです。役割としては予想通り、ハーラルアジトの襲撃をする本隊の警護でしょう」
クレヤボヤンスの使用を終えた新田さんが、俺たちに敵の情報を教えてくれる。
なるほど、ハーラルアジトを攻撃することに集中しているのに、それを突然奇襲されたら困るからな。
それを防ぐ役割か。
「敵の方もそういう役割だけにクレヤボヤンスを使っているっぽい。のんびりしていたらこちらの存在がバレるぞ」
おー、なるほど。
それは出来る限り早く動かないとな。
しかし、クレヤボヤンスを使っているということはその分、本体の方は無防備かつ無警戒なわけだ。
ならばクレヤボヤンスを使用している人数が多ければ多いほど奇襲が成功しやすい。
俺たちの存在がバレれば、人数差でこちらが大幅不利。
バレなければ奇襲が決まりやすくなって、逆に人数差をつけることができるからこちらが大幅有利。
そんな感じか。
「じゃあ俺が案内します。くれぐれも迂闊な動きはしないでくださいよ?」
そう言って新田さんがテレポートする。
移動先を見て、新田さんのすぐ隣にテレポートをする。
これの繰り返しだ。
だいたいこれを10回ほど繰り返して……。
「……」
新田さんが動きを止め、片手を横に広げる。
とまれってことか。
俺は素直に息を潜めてその場に静止した。
「そこにここの建物を挟んだ向こうに敵がいる。素早くクレヤボヤンスで見てみろ。10秒くらいだ」
指をさしながら、新田さんが小声で言う。
この隣か。
俺はクレヤボヤンスを発動する。
素早く狭い路地裏を抜けて、その先に視界を飛ばすと……。
「……!」
いる。
1人のヒーローと目があって動揺してしまったが、冷静に考えればクレヤボヤンスで飛ばしている視界が捉えられる訳がない。
ともかく敵の位置は把握した。
俺は本体に戻る。
「よし、大丈夫だな?」
こくりと首を縦に振る。
他のみんなも同様の反応だ。
しっかりみんな俺よりも早く確認を終えていたらしい。
やはり支部ヒーローを2人倒せる程度の実力では、この部隊のメンバーの実力は超えられないようだ。
悔しいようだが、今はそんな身近にいる
「じゃあ行くぞ」
あたりをはばかるような小さな声。
しかし、ありありと分かる、その言葉に含まれた力強さ。
新田さんのそんな一声で……。
「「「はい」」」
俺たちもまた同じような声音で応え、作戦を開始した。
まずは新田さんが、建物の影から顔だけを出し、路地の向こう側へと視線をやる。
そのまま俺の視界から姿を消した。
その後は他のメンバーが、次々と間髪を入れずにテレポートをしていき、ついに俺の番となった。
深呼吸をして心を落ち着ける間もなく、俺もテレポートをする。
いや、心を落ち着かせるのはもっと早くやっておけって話か。
そんな自分への突っ込み。
これも案外自分に余裕があるから為せるものかもしれない。
なーんてことを考えている場合じゃないよな。
俺は転移に成功して、素早くあたりを見渡す。
すでに戦闘は始まっていた。
具体的な役割は聞かされていない。
そんな暇は無かったからな。
とするとまずは……。
「サイコキネシス!」
俺は、羽織っていたジャケットを飛ばして、近くで星川と戦闘をしていたヒーローの視界を覆う。
パイロキネシスで届かない距離だったからな。
この方法なら遠距離でも視界を妨害できる。
弱点としては使える回数に限りがあるという事だろうか。
この技は、この1か月特訓で身に着けたものだ。
前の任務の時も、この技は思いついてはいたが、そもそも技術的に
不可能で使えなかったんだよな。
実は服と言うのは軽そうに見えて、広げた状態だと空気抵抗のせいで、サイコキネシスで操りづらい。
サイコキネシスは、意思の力で物体を動かす能力だが、普通に物を動かすのと同じように、大きかったり重かったりするものは動かすのが難しい。
だから、この1か月でサイコキネシスの技術を高めたことにより、服を素早く動かすことが可能になり、この技術を使うことができるようになったのだ。
視界をされて、混乱しているヒーロー。
「テレポート!」
そこに俺はナイフを構えたままテレポートをする。
しかし、ヒーローは視界を塞がれても読みで背後に振り向いた。
伊達に本部のヒーローやってる訳じゃないってことだな。
だが舐めるなよ。
俺だって成長してるんだよ。
テレポートした先は背後ではなく……。
「
グサッと背後から心臓を貫く。
「く、クソ……」
歯を食いしばって少しこちらの方を向くヒーロー。
しかし、すぐにその体は力を失って、床にぐったりと伏した。
よし、勝利。
とは言ってもこれは星川と戦っているところを奇襲しての勝利だが。
それでも、ゾディアックに入りたての頃の自分と比べれば、その実力は圧倒的に進化したと言えるだろう。
これならこの作戦中も、ゾディアックの大きく貢献できるはずだ!
俺は確かなる手ごたえに、ギュッと手を握った。
こうして俺は、今回のヒーローとの大規模戦闘で、最高のスタートを切ることが出来た。
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