第18話.一難去って……
2人をあっという間に倒し終えた刺客が振り返る。
「え……?」
そしてすぐに顔を覗き込み、俺は驚愕の声を上げる。
なぜならそこに悠然と立っていたのは新田さんだったからである。
俺は慌ててクレヤボヤンスの能力を使うのをやめて自信の周りを見渡す。
そこには確かに新田さんの姿は消えていた。
一体いつの間にいなくなったんだ……。
音も全然聞こえなかった。
クレヤボヤンスの能力を使うことに集中していたせいもあるが。
それにしても一声くらい掛けてから行ってほしいものだ。
……いや、声かけたからって俺たちにできることなんてそもそも無いか。
今回新田さんが俺たちを任務に連れてきたのだって、手伝いなんて名目にしてはいるものの、実際のところは俺たちに経験を積ませることが目的だろうからな。
ストレートにそう言わなかったのはあの人なりの気遣いだろう。
ま、でも戦闘も終わったようだし新田さんの方に向かいますか。
あーあ、せっかくの任務だってのになんもできずに終わっちゃったよ。
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「よし、来たな。それじゃあ今日のところはこれで終わりだ。帰るぞ」
現在時刻は16時を回ったところ。
まだ帰るには早いような時刻だが、もう1人新たなヒーローを見つけて狩るには少し時間が足りないか。
4月になり、最近は徐々に日も長くなり始めたところではあるが、それでもすでに辺りは薄暗くなってきている。
今日から学校が始まって明日も学校があるんだし、不完全燃焼ではあるが仕方ないな。
「そうですね」
俺はおとなしく頷く。
「まぁそう不満そうな顔をするな。こういう任務ぐらいならまた連れてきてやる」
ありゃ。
普通に無表情で頷いたつもりだったのだが、無意識のうちに表情に出てしまっていたか。
「それに規模は大したことないが、人の密集するここらで爆発が起こったんだ。警察やらが動き出しているだろう。その中にヒーローとかも複数混ざってるかもしれない。1人ならそこまで問題はないが複数来ると流石に俺も厳しい。ここは大人しく逃げるしかないのさ」
「それぐらい分かってますよ」
ぶっきらぼうに俺は答える。
俺だって理屈の上ではわかるんだよ。
でも感情と理屈は別問題でね。
この胸にくすぶった釈然としない思いは理屈では消せないのだ。
「じゃあ帰るぞ」
しかしそうも行かないので、新田さんが帰ろうとテレポートでこの場から離れようとして、俺もそのあとを追おうとしたその時だった。
「おい、お前たち! こんなところで一体何をしている!?」
突如、後ろの方から聞こえてくるそんな声に、新田さんも俺も思わず振り返る。
そこには拳銃を構えた大量の警察官と、その周りで俺たちを見つめる2人の違う制服を着た男。
あれは……超能力者か……?
「新田さん……」
流石に焦って俺は新田さんの方をチラリとみて尋ねる。
焦っていたのは俺だけじゃないようで、新田さんも表情は変えないまでも額には一筋の汗がにじんでいた。
「……超能力者の人数では3対2で上回っているものの、お前たちはまだ戦闘技術を覚えていないからこちらの分が悪い。……とりあえず、ここは一瞬の隙をついて逃げ出すしかないだろう。とりあえず両手を挙げて大人しくするんだ。俺がアクションを起こしたのと同時にやつらの逆方向にテレポートするんだ。できるだけ俺から離れるなよ」
新田さんは顔の向きを変えないまま、小声で一気にそうまくしたてる。
なるほど。
新田さんが手を挙げるのを見て、俺もそれに倣って手を挙げた。
「僕たちはちょっと気になって覗いちゃっただけです!」
新田さんが警察官たちに向かって手を挙げたままそう声を上げる。
普段のクールな新田さんからは考えられないような、まるでただの高校生のようなおびえた反応。
学校では生徒会長で、実は裏では悪の組織の副隊長やってて、それでいて演技力も高いとかスペック高すぎかよ。
俺は新田さんの頼もしさに少し気が楽になる。
「どんな事情があろうとも、とりあえず署までは連行する。話はそこで聞かせてもらおう」
しかし、警察もそんなんで解放してくれるほど甘くはない。
警察はこちらへと歩み寄ってくる。
そして警察官が俺たちの体に触れようとした瞬間……。
「パイロキネシス!」
「!?」
新田さんはパイロキネシスの超能力を発動する。
そしてそのままテレポートで逃走。
なるほど、パイロキネシスでこちらの動きが見えないように相手の視界を遮りつつ、ついでに警察官も巻き込んで傷を負わせることで一瞬でもダメージを受けた警察官の心配をするように仕向けたのか。
凄い機転だ。
……っと、感心している場合じゃなかった。
今のうちに新田さんを追わなきゃ。
俺もテレポートで新田さんを追う。
そのまま何回かテレポートを使って数秒。
俺はある違和感を感じて後ろを振り向きそのまま立ち止まる。
俺の感じた違和感。
そう、警察たちが追ってきている気配が全くなかったのだ。
いや、警察は俺たちの速度に着いてくることができないから当然だが、超能力者すら追ってきている感じじゃない。
人数不利だから単に諦めた?
しかし、俺はその違和感の理由をすぐに理解する。
「嘘……だろ……」
絶望して立ち尽くす。
「おい、馬鹿か! 何をやっている? 逃げ切ったとは限らないぞ!」
新田さんも俺が立ち止まっていることに気が付いたのか怒鳴りながら俺の方に戻ってきてくれる。
いや、俺もこの状況で何もないのに立ち止まるほど馬鹿じゃない。
「違うんです! いないんですよ! 星川が!」
青い顔で俺が放ったその言葉。
これにはさすがの新田さんも焦ったような表情を浮かべ血の気が引いたような反応を示した。
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