第19話.孤独
「な、なんでだよ……!」
新田さんは思わず俺の方を掴んで、問い詰めるように怒鳴ってくる。
しかしそんなこと言われたって俺にも……。
いや、この任務が始まった時からなんか様子がおかしいなとは思っていた。
よくわからなかったし別に深く考えなかったが、もしも新田さんに一言でも伝えておいたら……。
俺のせい……か?
そう考えると自責の念で頭が真っ白になる。
「ちっ」
そんな俺の姿を見て逆に少しだけ冷静になったのか、舌打ちをしながら少し乱雑に俺を突き飛ばすと……。
「おい、ぼさっとしてないで行くぞ」
小さく新田さんはそうつぶやく。
「え……」
「え、じゃないだろ。戻るんだよ。お前みたいな新人をヒーローと戦わせるわけには行かないと思っていたが、星川を見捨てるのは流石に目覚めが悪いからな。お前も俺のサポートくらいはしてもらうぞ」
そ、そうだ。
色々と余計なことを考えている場合じゃないよな。
今は星川を助けることを優先しないと。
「作戦はあるが、それを伝えている余裕はないから臨機応変に対応しろ」
新田さんは付け加えるようにそういうと、テレポートで元来た道を戻っていった。
俺は突然のことに呆然としながら見守っていたが、すぐに呆けている場合じゃないと新田さんの後を追う。
数秒で先ほどの警察と出会った場所に戻ってくる。
そこでは、すでに戦闘が始まっていた。
目まぐるしくテレポートを繰り返す星川を含む超能力者3人と、それを遠巻きに眺める大量の警察官。
戦況はすぐには判別できないが、常識的に考えて十中八九星川の方が劣勢だろう。
この前まで素人だったやつがヒーローと1対1だったといても勝てるわけないし、今回の場合その上人数でも不利なのだ。
しかしそんなことは星川だって分かってるはず。
一体なんでヒーローなんかとまともに戦おうとしているんだ?
俺が疑問が多くて混乱していると、新田さんが視界の隅でヒーローの裏に回ったのが見える。
背後を取られたヒーローも気が付いたようで、テレポートで逃げる星川の追撃をやめて素早く方向転換。
そのままパイロキネシスを発動。
これは新田さんも身を引いてあっさり回避する。
おっと、俺もこんな戦場の隅で戦いを見てる場合じゃなかった。
まずは、星川の回収からだ!
俺は素早く星川のもとに駆け付けて、テレポートで少し後方に飛ばす。
「「!?」」
しかし、その瞬間驚いたような声にならない叫びが重なる。
片方はテレポートで突然飛ばされた星川。
もう片方は俺のものだ。
俺も一旦新田さんのカバーが貰えるところまで移動しようとした瞬間、後方から俺に向かって何か物が投げられる気配がしたからだ。
やばい、これは避けられるような距離じゃない……。
そう思ったその時、左端の方から人影が現れてそれを弾き飛ばした。
誰だ、と思い左の方を向く。
助けてくれたのは星川。
しかし、さっきの俺への攻撃は釣りだ。
意識を逸らしておいて、本命は自身の攻撃。
「危ない!」
「……!」
俺の声のおかげか、はたまた星川本人の反射神経か。
間一髪、ヒーローの突き出したスタンガンのようなものを躱す。
それを見て敵のヒーローが一旦距離を取り、それを見た星川も少し引いて一呼吸を置いて仕切り直しという感じになる。
それを見て俺も引いた星川のもとに駆け寄り……。
「あ……」
ありがとう、と言おうとして口をつぐんだ。
星川の眼が、まるで俺のことなど見えていないかのように遠くのヒーローを睨みつけていたからだ。
俺はその見たことのないような怖い表情に、どうすればいいのか分からず固まってしまう。
なんなんだよ、さっきから。
ますます心中がぐちゃぐちゃになっていく俺をよそに、星川とヒーローの戦闘が再開される。
星川はヒーローと互角の戦いを繰り広げた。
テレポートで移動しながら時折サイコキネシスを使ったものを飛ばす攻撃を交えて多角的な攻撃を繰り出してくるヒーローに対して、星川は距離を詰めるように障害物を利用しながらテレポートを繰り返し、時折大きな攻撃で敵にプレッシャーをかける。
俺はそれを呆然とただ眺めているしかなかった。
目の前で繰り広げられているその戦いは、とても俺が手出しできるようなものではなかった。
あいつ、訓練とか一緒にしてる時はあんなに動けてなかっただろ。
実力を隠してたっていうのかよ。
でも出会った時からおかしいとは思っていた。
どっからどう見ても普通の女の子って感じだったのに、ゾディアックに来てるのがまず違和感を感じるし、ゾディアックで一緒に過ごしていても特に闇を感じたりはしなかった。
でも、今星川の様子がどこかおかしい。
もしかして、星川の過去に何かあって、今のこの状況がその過去と関連しているのかもしれない。
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